ではどうすればいいのか。ひとつの提案は、「高齢者難民」を防ぐために、耐用年数が200年程度の公共賃貸住宅を大量に建設することだ。

民間の賃貸住宅は20~30年程度で建築費を回収する必要があるため家賃が高い。だが国や地方自治体であれば超長期の借金ができる。耐用年数が200年程度で、維持補修費が他の集合住宅とさほど変わらないものを建てる技術はすでにある(※2)。土地は区役所の上や公共遊休地などを活用する。建築費の回収期間を200年に設定すれば、家賃は月額2万~3万円程度に抑えられるはずだ。

人口減少高齢社会は資源減少社会だ。限られた資源で社会を維持していくためには、世代を超えて資源を管理する必要がある。年金は現役世代の稼ぎ、つまり「フロー」に頼る仕組みだが、公共賃貸住宅は世代を超えた「ストック」の資源になる。

民間の商業ビルにも「ストック」の管理という視点が有効だろう。個々の対応ではスラム化は防げない。東京にある商業ビルの台帳をつくり、新規建設の調整や建て替えの指導を行う。資源を適正に管理できれば、企業活動の持続性も高まる。

東京の劣化を防ぐうえで、これから必要になるのは変化を恐れないことだ。今後の人口減少高齢社会では、働く人の比率が低下するため、1人当たりの財政支出は増えるが、税収は増えない。このため財政再建を達成するには、人口の減少に比例して財政規模を縮小させるしかない。言い換えれば、年金や社会福祉、公共サービスなど、これまでと同じ社会構造では成り立たないということだ。

経済にも同じことがいえる。米国では、各業界の概ね3分の2、欧州では半分程度が、外国企業だ。だが日本では、いずれの業界も国内企業がほとんどだ。東京の国際競争力を高めるには、日本企業に外国人を呼ぶのではなく、東京に多数の外国企業を呼び込むような「開国」が必要だろう。そのためには日本経済全体の構造改革も求められる。

東京の劣化は、2020年の東京オリンピックの数年後には兆しが見えてくるだろう。対策を急ぐ必要がある。祭りの後で悔やんでも、最早手遅れなのだ。

※1:少子化社会対策白書(平成26年版)は、「合計特殊出生率は2010年の実績値1.39から2014年まで、概ね1.39で推移し」「2060年には1.35になると仮定」「仮定に基づいて試算すると、50年後の2060年には8,674万人になる」としている。
※2:日本建築学会は2009年に「建築工事標準仕様書 鉄筋コンクリート工事」(JASS5)を改定し、新たに「超長期(200年)」の仕様を加えている。

松谷明彦(まつたに・あきひこ)
政策研究大学院大学 名誉教授
1969年東京大学経済学部経済学科卒、70年同学部経営学科卒、大蔵省入省、主計局調査課長、主計局主計官、横浜税関長、大臣官房審議官等を歴任、97年大蔵省辞職、同年本学教授、2011年本学客員教授(現在に至る)。2004年東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻論文博士号取得。
(オバタカズユキ=構成)
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