現実は、性質の違う基準範囲が公表されたことで混乱が起きている。なぜ新たな基準範囲を公表したのか。

「健康診断の検査項目には、赤血球のように予防的見地から閾値を設定できないものがあります。そういった項目に関しては、従来から判別値ではなく基準範囲を用いていた。性や年齢を無視して一律の基準範囲ではまずいということで、今回、学会として新たに基準範囲を出すことになりました」

人間ドック学会は、全国の健診施設に今回の基準範囲を採用するように働きかけていく考えだ。その過程で混乱が起きそうだが、和田教授は「気にしすぎないほうがいい」と助言する。

「もともと基準範囲は病院によって異なる。たとえば慈恵医大ではグループ4病院の職員のデータを用いて基準範囲を算出していますが、他の病院はまた別の母集団のデータで基準範囲を導いています。基準範囲にばらつきがあり、あっちでは健康、こっちでは不健康と判定されるケースはこれまでも起こりえた。数値1桁台の差が大きな意味を持つわけではありません。基準によって判定が変わっても、それを深刻に受け止める必要はないでしょう」

健診については、ほかにも疑問がある。そもそも、効果はあるのか。

「健診の効果は、データにもはっきりと表れています。東北大学の先生が健診受診者と非健診受信者を11年間追跡したところ、健診受診者の死亡率は29%減少していました。とくに循環器疾患、つまり心筋梗塞や脳卒中において差が顕著で、死亡率は35%下がっています。長生きしたければ、健診を受けたほうが賢明です」