小笠原流礼法三十一世宗家 小笠原清忠氏

日本の場合、武家の世が終わった明治以降、伝統的な作法からこの「鍛錬」の部分が欠け落ちていきました。小笠原流礼法を継承する立場から言えば、それは決して生活が洋風化したからではなく、作法が楽なほうへ、楽なほうへと流れていった結果、現在のように手順優先になったといえます。

グローバル化が言われ、東京五輪の2020年開催が決まって「おもてなし」という言葉もよく使われます。なのに、小笠原流礼法の稽古を見た日本人は「今どき、誰がこんなことをやるの?」と怪訝な顔をします。けれど、外国人が見ると「こんないいものがあるのに、なぜ日本人はやろうとしないのか」と言います。

礼節は、その外見こそ国や社会によって異なるものですが、大もとにあるのは、いずれも人を思いやる心です。そして、自国の伝統に根ざした作法は、どの国へ行っても通用するもの。ですから、国際化が進む現代にこそ伝統的な作法を学ぶことが必要ですし、それが日本という国を世界にアピールすることにもなると私は思います。

では、ある程度の年齢を重ねた今、仕事の合間に一から礼法を学ぶことは可能でしょうか。先にも述べましたが、武士は子供のころから礼法に則った生活をしますから、自然と作法が身につきます。しかし、そのような生活習慣のない現代人が、大人になってから礼法を学ぶのは、少々大変かもしれません。一度だけ、1~2時間やって終わりでは意味はありませんし、そうですね……2年から3年続けて、少し格好がつくかなといったところです。

しかし、決して難しいものではありません。普段の生活の中に少しずつ取り入れていけば、疲れにくい体づくりに繋がります。ほかとはちょっと違う美容体操だと思えば、始める際の抵抗感も小さいのではないでしょうか。

小笠原流礼法三十一世宗家 小笠原清忠(おがさわら・きよただ)
1943年、東京都生まれ。三十世宗家・清信の長男。92年、三十一世宗家を継承。慶應義塾大学商学部卒業。特殊法人勤務を経て東京都学生弓道連盟会長、儀礼文化学会常務理事、日本古武道振興会常任理事。伊勢神宮、熱田神宮、鶴岡八幡宮をはじめ各地の神社で流鏑馬・礼法・歩射行事を奉納するほか、全国で礼法の指導を行っている。著書に『小笠原流 弓と礼のこころ』ほか。
(高橋盛男=構成 若杉憲司=撮影)
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