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ところでジャーナリストで社会評論家の故大宅壮一氏は「男の顔は履歴書、女の顔は請求書」という名言(?)を残しています。その意味は、お金や権力を持っている男性に対し、美しい女性ほど多くの請求ができるといったようなことです。今は別の意味でこの言葉を女性のビジネスでのあり方に喩えることができます。「私は仕事ができる。こんなに価値があるのよ」と売り込み「もっと高い処遇」を求めて、請求書を振り回していたのでは品格のない振る舞いになり、卑しくなります。

ビジネスでは「請求書」よりも協力してくださった方に感謝する「ありがとう」の「領収書」のほうが大切です。自分の仕事がほめられた場合も、素直に「ありがとうございます」と感謝します。褒められるとうれしくなっていろいろ工夫した点や独自性など苦労したことを言いたくなりますが、少し抑え、チームでした仕事の場合は、「みんなで頑張ったんです」とか「○○さんたちのおかげです」と付け加えましょう。

仕事や人生でうまくいっているときは周りに人が集まって、もてはやしてくれます。会社であれば昇進したり、いいポストに就くと、その人の中身や価値が変わったわけでもないのに、急に知り合いが増えたり、評価が高くなります。ところがうまくいかなくなると、スーッと人が離れていきます。でもうまくいっているときには、周囲が大事にしてくれても、あまり心に残らないものです。身の回りから人が引いていくときに温かく接してくれ、救命ブイを投げてくれる人のことは心に残ります。「本当にありがとうございます」と言いたくなるものです。

短期的に考えれば今、力を持っている人、お金を持っている人によく思われるのが出世する、成功するためのショートカットだというふうに思いがちです。ところがそこでアピールするのは能力に自信を持っている競争相手が数多くいるわけで、大変なエネルギーが必要になります。その中でみんなと同じことをしていてもあまり効果はありません。

むしろ風向きがアゲインストになって、日の当たらないポストにいる人に、きちんと丁寧に接する。たとえそのまま消えていく人であったとしても、人として、きちんと丁寧に礼儀正しく接し続けることはとても大切なことです。後で自分を恥ずかしいと思わなくてもいいような言動をし続けることが、女性の生き方としてもビジネスの上でも一番の王道だと私は思います。

残念なことに今はまだ真の男女平等社会への過渡期で、ほとんどの男性は心の中に男尊女卑のしっぽが残っていることを忘れないでください。働く女性を見る男性の目が変わり始めていますが、自分の意見をきちんと論理的に言う女性に対して、頭ではわかっていても感情的に反発する人がまだまだいます。特に大会社の幹部や男子校の進学校出身者、女子学生の数が少ない法学部や経済学部で学んだような人にはそういう傾向がみられます。