私自身のケースを取り上げたい。私はかつて、三菱地所の財務担当をしており、ロックフェラーセンター買収にも携わった。一般的にみれば百戦錬磨の経験を積んでいるようにみえるだろう。しかし、三菱地所を辞め、会社を創業した後、多くの詐欺に遭い、果ては会社を乗っ取られてしまった。自分の会社を取り戻すのに4年もかかったのだ。三菱地所時代は総務や弁護士に守られていたことを痛いほど思い知らされた。もちろん今ではもう騙されることはないが、社会経験を積んでいると思っているビジネスマンも要注意なのだ。

以前、大手企業の社長の家族から相談を受けたことがある。社長が変な占い師にはまってしまい、冷静な判断ができなくなっている、というのだ。上場企業の社長といっても実力で這い上がってきたわけではない。長年在籍して、たまたま社長の椅子が回ってきた「偶然」の賜物である。しかし、それを認めようとせず超自然的な「運」を信じようとし、それにつけこんだ占い師にまんまと騙されていた。大企業のトップでさえも、その上をいく詐欺師にはコロッと騙されてしまうものだ。

ではどうやって騙す者から身を守ればいいのか。それは「ほどほどの欲」=「中庸」である。欲を強く出しすぎると前頭前野の働きが弱くなり冷静な判断ができなくなるからだ。いかなるときも「ほどほどの欲」に抑えることで、冷静さを保つことができ、騙す悪人から防衛することができる。これは不透明な時代を生き抜くビジネスマンにとって必須の考え方である。

認知科学者 
苫米地英人
(とまべち・ひでと)
1959年、東京生まれ。上智大学卒業後、三菱地所入社。カーネギーメロン大学で博士号取得後、徳島大学助教授、ジャストシステム基礎研究所所長などを歴任。
(構成=鈴木領一 撮影=坂本道浩)
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