東京五輪の後を見据えた新たな事業モデル

近畿日本ツーリスト社長 小川 亘氏

近畿日本ツーリストは、東京大学発のベンチャー企業・アスカラボと共同で、「拡張現実(AR)」技術を応用した「スマートツーリズム」ツアーを開発、販売を開始した。メガネ型の端末(ウエアラブルグラス)をかけると、皇居東御苑では江戸城の天守閣、日本橋では江戸時代の町並みや人々の行き来が、実際の風景の中で甦る。小川亘社長に、導入の狙いと今後の展開を聞いた。

──ツアー誕生の経緯は。

【小川】当社は2014年10月に「未来創造室」を立ち上げました。旅行商品のコモディティ化が進行する中、今後も当社が生き残っていくためには、20年の東京五輪以後をも見据えた、事業開発が必要だという、部課長クラスの社員からの提案が発端です。そこで同室の安岡宗秀部長と考えたのが、透過型のウエアラブルグラスを使ったスマートツーリズムという構想でした。

問題は、その技術を使って何を提供するかです。ちょうど『甦れ!江戸城天守閣』というご本を、松沢成文参議院議員からいただきまして。そうか、江戸城の図面はあるわけだから、それを再現してみてはどうだろうと。

東京にはパリの凱旋門のような、歴史的ランドマークがあまりありません。そこで、昔はあったけど今は見られないものを、テクノロジーの力でお客様に見ていただければ、と考えました。

──現在の主なターゲットは。

【小川】修学旅行など教育旅行への導入も検討したのですが、現状ではまず40~60代の「大人」の方々、および訪日外国人のお客様を想定しています。

──海外からの訪日観光客にとって魅力的なサービスのように思えます。

【小川】中国・台湾・タイの現地旅行代理店向けに、このプログラムを発売し始めています。これからアジア各地で開かれるトラベルショーでも、注目を集めることができればと思います。

ただ、ウエアラブルグラスの導入によってインバウンドのお客様を何人増やそう、とは意識していません。当社ならではの価値を提供するための、差別化ツールという位置づけです。