これで元気つけてお父さん

被災した仙台空港近くの鈴木さん宅。そこから見えるのは、瓦礫がいまも残る広い空間のみ。

被災した仙台空港近くの鈴木さん宅。そこから見えるのは、瓦礫がいまも残る広い空間のみ。

あの夜、命がけで鈴木圭一のいる家までやってきた長男が、しばらくたったある日鈴木に言った。

「なんつったって車だよ。僕がいいの見つけて買ってあげるから、元気つけてお父さん」

そして、トヨタの高級車「ブレビス」を買う。長男が高級車を選んだのにはわけがある。鈴木が区長の活動を続けるためだった。被災した旧住民はもちろん、新たにできた仮設住宅の住民にも鈴木は接していこうと、決めたのだ。市の広報誌を配布し、困っていることはないかなど住民から直接話を聞き、場合によっては市につなげる。家族を喪失した人も多く、心のケアも求められよう。

長男から依頼を受けた若松は75歳の鈴木のために、オークションでブレビスを見つけてきた。

「どこでも安全に、安心して走れる車です」と、キーを渡す。

件の家にはもう住めない。鈴木も多くの財産を失った被災者の一人だ。親戚宅に身を寄せたあと、ようやく長男一家と名取市内でのマンション生活を始めたばかりだ。

しかし、どうもお金ではない。取材当日の5月17日は納車の日でもあった。初めて運転するブレビスに私たち取材陣を乗せて、空港周辺まで案内してくれながらこんなことを言うのだ。

「自分を必要とする人がいる限り、私は精一杯やっていきたい。地域の復興に少しでも役立つなら幸せです。新しい車を手にして、ようやく希望が見えてきました」

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(若杉憲司=撮影)