2年で再建できた理由

元カネボウ繊維部門の改革を進めるにあたり、社員に話したことは次の3つです。

一つは、「自分の城は自分で守ろう」。これは私たちも迂闊でしたが、元カネボウ社員たちは、カネボウの労働組合に所属したままセーレンに移籍していました。この買収に強い警戒心を抱いていた彼らは、問題が起きたらカネボウの組合に守ってもらおうと考えたのでしょう。しかし、カネボウを離れた元社員をカネボウの組合が守ってくれるはずはありません。自分の城は自分で守るしかないのです。そう何度も説得して、1年後にようやくカネボウの組合からの脱退を果たしました。

2つ目は、「カネボウが誇った日本一の栄光を、もう一度取り戻そう」。カネボウは倒産したとはいえ、元社員には優秀な人がたくさんいます。彼らが能力を存分に発揮し、再び栄光を取り戻すためにも、彼らの独自性を最大限に尊重しました。社名を「KBセーレン」としたのも、カネボウという社名のニュアンスを残すためです。また、「買収」という言葉は使わずに、「引き継ぐ」と表現するなど、元カネボウ社員を刺激しないような言葉選びにも気を遣いました。セーレンの100%子会社でありながら、人材採用もKBセーレンの独自性に任せています。

3つ目は、「変えよう、変わろう」。古い企業体質を変えることができるかどうかが再建の鍵を握るのだと、くり返し語りかけました。折しも、私たちセーレンも存亡の危機から少しずつ立ち直り、1987年に策定した4つの経営戦略のもと改革の途上にありました。セーレンが導入した5ゲン主義や整流活動をKBセーレンにも持ち込み、同じ目標に向かって一緒に取り組みを始めました。そうしてカネボウ繊維部門の買収から2年後、KBセーレンは見事に再建を成し遂げたのです。

2012年には、KBセーレンの生え抜き社長が誕生。KBセーレンは、いまではグループ内でも業績を上げ続ける優秀な企業の一つに成長しました。現在、社員数は560名。定年退職やセーレンへの出向を除き、人員整理は一切行っていません。こうしてKBセーレンを再建したことで、私たちは、原糸生産から縫製・小売りまで一貫したビジネスモデルを世界で初めて実現しました。

川田 達男(かわだ・たつお)
セーレン会長兼最高経営責任者
1940年、福井県生まれ。62年明治大学経営学部卒、同年福井精練加工(現セーレン)入社。87年社長就任。2003年より最高執行責任者(COO)兼務。05年より最高経営責任者(CEO)兼務。05年に買収したカネボウの繊維部門をわずか2年で黒字化させる。14年より現職。セーレン http://www.seiren.com/
(前田はるみ=構成)
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