古い企業体制を変えていく
カネボウ繊維部門が持っていた防府事業所(山口県)、長浜事業所(滋賀県)、北陸合繊事業所(福井)には、合わせて852名の社員がいました。産業再生機構の要望どおり全社員の雇用を約束し、再建を目指しました。
経営状況を調べてみると、惨憺たる状況に愕然としました。合繊事業が高収益を生み出していた時代の古いやり方を変えていなかったことに、最大の問題がありました。一例を挙げると、合繊事業はいわば装置産業ですから、社員の仕事としては機械の監視や保全が重要です。カネボウの合繊工場では、保全係が3時間ごとにすべての機械を点検し、ノートに何やら数字を記録していました。
その数字は何のために書くのか、数字の記入は改善につながっているのか。すべての機械を3時間ごとに見回る必要はあるのか。機械によっては1日に1回、もしくは1か月に1回の点検で済むケースもあるはずです。そういうことをまったく考えず、過去38年間ずっと同じやり方を続けていたのです。私たちは機械ごとの点検回数を見直し、点検の結果を数字ではなく○×の記入に変えました。すると、保全係の仕事が3分の1に減り、改善にもつながるようになったのです。同様に事業全体の業務も見直した結果、全体の30~40%を削減しました。
問題はほかにもありました。前経営者の粉飾決算のもと業績表が管理されておらず、社員の給料の支払いもままならない状況だったのです。すると何が起きるかというと、自分たちがやるべき仕事まで外注し、外注先と癒着するのです。最悪の企業体質です。
正常な状態に戻すために、収益性の高い事業を社内に取り戻し、外注先の企業が集まる会合への参加も禁じました。当然、外注先からは反発が起こります。取引先からも、商品の安定供給を不安視する声が上がりました。「私たちセーレンが責任を持って対応します」と丁寧に説明しても、競合他社に流れた仕事もありました。