男女別学校の「男らしさ」「女らしさ」

男女を分けて教育することで得られるものは、ペーパーテストで測定できる学力だけではない。

アメリカのバージニア大学は2003年、「男女別学は性別による固定概念を打ち崩しやすいが、共学はそれを強化する」と発表している。一見逆説的だが、よく考えてみれば理由は単純。

共学校においては、「男性は男性らしく、女性は女性らしくあれ」という、既存社会からの暗黙のメッセージが教室に入り込みやすい。現在の社会にある「男女不平等な既成概念」すなわち「ジェンダー・バイアス」の影響を受けやすいのだ。

しかし、男女別学校にはジェンダー・バイアスが入り込む余地がない。無理に男らしく振る舞う必要も、無理に女らしく振る舞う必要もない。

このことは、卒業後の進路にも影響を与える。イギリスの国立教育調査財団の調査によれば、「女子校では、女性らしい教科や男性らしい教科という固定概念にとらわれにくい」とのこと。日本でも、多くの女子校で、理系に進む生徒の割合が、世間一般のリケジョの割合よりも多い。

男女別学校においては、男女ともに成績が向上しやすいだけでなく、「ジェンダー・バイアス・フリー」でもあるのだ。

男女別学か共学かの議論は、ジェンダー論だととらえられがちが、実はこの議論を突き詰めていくと「学校にどこまでの機能を求めるのか」という話に行き着く。もともとは大家族や地域社会が担ってきた、異性とのコミュニケーション能力育成の場としての役割を、学校がそっくりそのまま引き受けるべきなのかどうか。これは社会が学校に求める機能に関する問題であり、本来ジェンダー論とは別次元の議論されるべき事柄だ。

また、「これからは多様性の時代。同性だけの集団で学ぶことは時代に即さない」という表層的な論理を盾に、男女別学校の存在を否定するような風潮こそ「教育の多様性を損なう」という矛盾も指摘しておきたい。

おおた としまさ
教育ジャーナリスト

麻布高校卒業、東京外国語大学中退、上智大学卒業。リクルートから独立後、数々の教育誌の企画・監修に携わる。中高の教員免許、小学校での教員経 験、心理カウンセラーの資格もある。著書は『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』『男子校という選択』『女子校という選択』『進学塾という選択』など多数。
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