母子一体の就活「甘えの構造」
ここまで親との依存関係が強くなっている現実に驚かざるを得ない。
もちろん少子化で長男、長女しか生まれない中で溺愛している親が多いからだろう。だが、子どもは次第に独立心が目覚め、20歳を過ぎれば自然に親から自立していくものではないのか。
思い出すのは、1971年に出版され、ベストセラーとなった精神分析学者の土井健郎氏の『「甘え」の構造』(弘文堂)だ。
「甘え」という欧米にはない日本固有の言葉をヒントに人間関係や集団と個人の抜きがたい依存関係についても言及している。著者の土井氏は甘えの心理的原型は「母子関係における乳児の心理に由来する」と述べているが、これ自体は世界共通のものだ。そして普通は精神の発達とともに自分と母親が別の存在であることを知覚する。
▼高偏差値学生ほど親依存
しかし、日本だけに「甘え」という言葉が生まれた背景には「母子分離の事実を否定し」「母子一体感を育成することに働く」と分析している。
まさしく今の母子一体となった就活風景に、子どもが母親に依存し、母親も必要以上にそれに反応するという母子一体感をみてとることができる。
幼児期ならいざしらず、社会人としての自立が求められる時期に、土井氏が指摘する甘えの原型そのものが顔を出しているのである。
土井氏は「甘えは他を必要とすることであり、個人をして集団に依存させることはあっても、集団から真の意味で独立させることはあり得ない」とも言っている。
ということは子どもを親から切り離し、会社という集団組織に組み込めば、本人は会社に逆らうことなく、忠実に働く存在にもなる。はたしてそれはこれからの社会にとって良いことなのだろうか。