2. 真の要望は言わない
「隠されたアジェンダ」とは

(時事通信フォト=写真)

勘違いしている人が多いのだが、交渉するということは、自己主張することではない。相手がいま何を一番求めているのかを知り、それに対する交渉のカードを最初から持っておかなければならない。

つまり、ライバルに勝つためには、本当に欲しいことを相手に知られないことが何より重要であるとともに、相手の欲すること、つまり「隠されたアジェンダ」を突き止めれば勝機が生まれる。欲望がすべての突破口となるわけだ。

私がドイツにいたときに、後に外務大臣になったヨシュカ・フィッシャーは緑の党の代表を務めており、次の選挙では連立政権を組むと見られていた。だから各国の外交筋はみんな、彼にどういう外交政策をしたいのか聞きたがった。ところが、会食をセッティングしようとしても多忙を理由に姿を見せない。唯一、現れたのが、日本の大使が招いた食事会だった。

なぜか。彼は当時、若い女性との再婚を考えており、その女性から「あなたは太っているから、やせて」と言われ、一生懸命リンゴダイエットやジョギングに取り組んでいた。そんなときに「日本食はすごくヘルシーだ」と聞いたらしい。もちろん、彼自身の政治的な目論見もあっただろうが、女性と結婚したいという欲望、健康的なものを食べたいという食欲――そこが突破口になったともいえる。

ビジネスパーソンの場合なら、金銭欲や昇進欲、承認欲が代表的な欲望として挙げられる。なかでも承認欲は与えやすい。相手が負い目を感じるほどに与えまくるわけだ。すると「私は納得しているわけではないけれど、認めてもかまわないよ」と変化する。ゲームのルールが変わり、こちらの意図する方向へと進む。人間はもらえばもらうほど、お返しをしたくなるものなのだ。