「読了に専門知識は必要ありません」

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株価の上昇局面では「格差本」が売れる

ベストセラー作品をいくつも持ち、経済小説も手がける小説家の石田衣良さんは「みんながうっすらとわかっていて腹立たしく感じていたことを、データできっちり指摘したことが新しい」と分析する。

「格差社会にみんな不安を持っていて、その処方箋が欲しかったんじゃないですか。働くよりも、投資したほうが儲かることへの怒りの処方箋ですよ。いまの経済状態はずっと続くでしょうから、10年20年のスパンで売れる本になる」

大阪大学の大竹文雄教授は「基本的に日本で格差への関心が高まるのは、不況のときではなく株価が上がったときです」と話す。

その例として大竹教授は次の流行語とベストセラー(※2)を挙げる。

1984年『金魂巻』
同年「まるきん、まるび*」が流行語大賞に
98年『日本の経済格差』
2000年『不平等社会日本』
04年『希望格差社会』
05年『日本の不平等』
06年「格差社会」が流行語に
15年『21世紀の資本』
*実際は丸囲みに「金」と「ビ」

「84年は株価が上がりだして、その後のバブルに向かう前です。99年から00年はITバブル。02年からはいざなみ景気で株価が上昇。今回は13年から株価が上がっています。要するに資産価格が上がるとお金持ちの消費は増えますが、賃金所得の上昇が遅れるため格差感が高まります。一方、資産価格が低迷して全員が貧しいときには格差への関心はそれほど高まりません」

しかしこの本は経済学の知識がない私にも理解できるのだろうか。大竹教授は問題ない、という。

「必要な経済統計に関する知識を基礎から説明してありますし、歴史的な描写や小説からの引用も多く、経済学に対する特別な専門知識は必要ありません」

さらにみすず書房の中林さんもこんな読み方をアドバイスしてくれた。

「結論を知りたいのであれば『はじめに』にエッセンスは詰まっています。あとは目次を見ながら自分の興味があるところを読んでもらえたら」

「はじめに」だけでも38ページ、取り敢えずここから取りかかろうか。

※1:フランス語の原著は2013年8月30日、英語訳版は2014年4月15日の刊行だった。部数は翻訳も合計して2014年10月現在で150万部。最大部数は英語訳版の50万部。韓国語や中国語、アラビア語など35カ国語で翻訳される。
※2:渡辺和博とタラコプロダクション『金魂巻──現代人気職業三十一の金持ビンボー人の表層と力と構造』、橘木俊詔『日本の経済格差──所得と資産から考える』、佐藤俊樹『不平等社会日本──さよなら総中流』、山田昌弘『希望格差社会──「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』、大竹文雄『日本の不平等──格差社会の幻想と未来』。

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