※プレジデント誌の特集「トヨタvsグーグル」(2013年9月16日号)からの転載記事です。
トヨタほど会社と社員の紐帯を大事にしている会社を知らない。トヨタウェイは「人間性尊重」を掲げている。具体的には、ステークホルダーの尊重、会社と社員の「相互信頼」と「相互責任」、誠実なコミュニケーションの3つだ。ここには、人生の大部分を費やす職業生活が有意義な人生であったと思えるような会社にしたいという願いも込められている。
「なぜトヨタでは「人望」がなければ出世できないか」(http://president.jp/articles/-/14480)にある10カ条でも「愛社精神」を掲げているが、宮崎直樹元専務(現豊田合成副社長)は「いい会社に勤めているな、この会社にいて誇りに思う気持ちが愛社精神につながると思います。いい会社とは、いい車を出しているというだけではない。何か国とか地域の役に立っているとか、徳のある会社であることが大事」と語る。
これまでの日本企業は愛社精神や社員との一体感を高めるために様々な施策を講じてきた。しかし、長期雇用神話が崩れ始め、高額の報酬と絶大な権限の付与で社員の心を揺さぶる経営にシフトしている。それでもトヨタは「泥臭い」ほど昔ながらのやり方にこだわる。
46年以来続く「社内駅伝大会」には総勢2万人が集まる。全国の各工場で開催される「工場祭り」は、従業員の家族や地域住民が集まる盛大なイベントだ。
業績不振を理由に企業スポーツから撤退する会社が多いなかで、トヨタは今も大事にする。硬式野球、ラグビー、バスケットなど6つの重点の運動部があるが、そのうち、リーマンショック以降、5部が優勝している。経営不振にあえいでいるときであっただけに運動部が果たした役割は大きかった。トヨタ人事部も積極的に動いた。宮崎元専務はスポーツイベントの意義をこう語る。
「人事としては常に従業員やその家族に動員をかけました。従業員にとっても、自分の職場で働いている選手が出場するので、ものすごく応援するわけです。また、OBも後輩たちががんばっている姿を見るためにたくさんきて、交流します。各工場からたくさんのバスに乗ってやってきます。試合中は誰もがトヨタがんばれ、トヨタがんばれと熱心に応援するわけです。それだけで会社との一体感が生まれます。選手も会社の調子が悪いときこそ自分たちががんばって明るい話題を提供しよう、必ず優勝しようと一生懸命にがんばるわけです」