週末もお構いなしが米国の働き方
一方、アメリカから日本へ来るときは事情が異なります。国内とは違って距離が長いですし、お客は私1人ですから、コーポレート・ジェットを使うにはコストがかかりすぎます。そこで一般の旅客機を使うことになるのですが、そうすると、コーポレート・ジェットで移動するときとはまったく違った時間の使い方をしなければなりません。
たとえば、日本に来るときの飛行には13時間かかります。時差も大きい。そこで、まずは機内で睡眠をとり、健康を管理し、到着したときに十分健康な状態でいることが大切になります。
ニューヨーク=成田間など長距離飛行のときは途中で必ず夜が訪れます。夜になれば乗客は食事をし、あとはシェードを下ろして寝るだけです。機内の照明が落とされ、仕事はしにくくなります。
しかし、逆にいうと私の席は繭にくるまれたような心地よい空間、いってみればサンクチュアリ(聖域)になるのです。しんとした静けさの中で、手元の照明を頼りに、翌日のスピーチ原稿などを一生懸命書いていきます。そこでは誰にも邪魔されずに、スピーチで何を言おうか、どんなスピーチにしようかということをじっくり考えられるのです。
そうでないときはプライベートな時間を過ごせます。ただ、数週間前のことですが、前の席に座っていた人がふと立ち上がり、「おや、ソニーCEOのストリンガーさんですね?」と声をかけてきました。「そうです」と答えると、その人は「ぜひとも仕事の話をしたい」というのです。
私は困ってしまい、「いえ、ここではビジネスはしません。私だけの時間なんです。すみませんが、どうぞ一人にしてください」とお願いしました(笑)。
なぜこのような話をするのかというと、私の場合、午後4時に成田へ到着し、そのままディナー兼ミーティングに臨むということが珍しくありません。ですから、着陸した時点ですでに「いつでもミーティングに入れるぞ」という気持ちになっていなければいけないのです。
そのため、私は飛行機の中ではお酒を飲みません。たいていはゆっくり眠ったり、音楽を聴いたり、本を読んだり、スピーチを書いたりしています。そして明るい気持ちで飛行機を降り、地上で待ち受けているソニーの社員たちとさっそく議論を開始するのです。