2.一世一代の重要な決断は何を基準に下すべきか

北尾吉孝 SBI-HD執行役員社長

何が正しくて何が間違っているかを判断するのは、実はそれほど簡単ではない。それが法律であっても、守るのが正しくて違反は間違いとは一概にはいえないのである。たとえば、先ごろ亡くなった南アフリカのネルソン・マンデラ元大統領は、就任前に、国家反逆罪で27年間も刑務所に入れられていた。もし彼が法律を破るのはよくないことだからと反アパルトヘイト運動に身を投じていなければ、後にノーベル平和賞を受賞することも、大統領になることもなかったろう。また、人を殺すという一見絶対に正しくないと思われる行為も、戦争中ならそれが正当化されて、何人も殺した人が英雄になることだってないわけではない。

このように法律や倫理であっても、判断の絶対的な基準にはならないのである。ましてや、上司の顔色や周りの意見を気にして大事なことを決めるというのは、非常に危ういといわざるをえない。

では、重要な決断をする際は、何を基準にすればいいのだろう。それは、自分の良心だ。

イギリスが石油の権利を主張し続けていたため、どの国も手を出しかねていたイランに、出光は自社のタンカーを派遣し、石油の買いつけに成功した。だがイギリスも黙っていない。出光の買いつけは無効だと日本の裁判所に訴えた。ところが、イギリスの主張はことごとく退けられてしまう。そこでイギリスは苦し紛れに、「出光の社長は信頼できない。石油を不当に横流しするに違いない」と佐三を攻撃しだした。

これに対し佐三は、「俯仰天地に愧じざる行動をもって終始一貫する」と答えたのだった。

この問題は国際的紛争問題になっておる。
でありますから僕は日本国民の一人として、俯仰天地(ふぎょうてんち)に愧(は)じざる行動をもって終始一貫することを裁判官に誓います。

俯仰天地に愧じないというのは、自分の心や行動に少しもやましいところがないという意味だ。つまり、最初から最後まで自分は良心に従うと、佐三は言ったのである。その結果、裁判所はイギリスの訴えを却下した。当時の力関係からいえば、明らかにイギリスのほうが上だったのにもかかわらず。

たしかに佐三のとった行動は、日本国内にガソリンや灯油が不足し、不便な生活を強いられている日本人のためであり、そこに私利私欲はなかった。だから、法廷でも臆することなく、自分の決断の正しさを主張し続けることができたのである。

ちなみに私には、3つの判断基準がある。1つ目が、これをやって社会の信用を失うことがないか。2つ目が、社会正義に外れていないか。そして3つ目が、相手のことをじゅうぶん思いやっているか。これらを漢字で表すと、それぞれ「信」「義」「仁」となる。

世間の評価には毀誉褒貶がつきものだから、そんなものは気にしても仕方がない。それよりも、この信義仁に照らし合わせて間違っていないことが、私には重要なのである。

※言葉の出典は『出光佐三の日本人にかえれ』(北尾吉孝著)、『出光佐三語録』(木本正次著)

北尾吉孝(きたお・よしたか)
SBI-HD執行役員社長
1951年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、野村証券に入社。99年ソフトバンク・インベストメント(現・SBI-HD)を設立し、現職。幼少時代から中国古典に親しみ、数々の古典を読破した経験を持つ。
(山口雅之=構成 的野弘路=撮影)
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