修羅場で拠り所となった「アイデンティティ」
【山名】もう1つは、ぎりぎりに追い込まれた局面で、理念が自分の判断の支えになり行動を後押ししてくれた経験です。90年代終わり頃、当時ミノルタが買収したアメリカ南部の会社の再建のために経営者として派遣されました。経営と現場に距離感がある典型的アメリカ型の経営スタイルで、事業環境が厳しいこともあって、合理化を進めているところでした。
6カ月、1年と現場を見てわかったことは、この会社にはすばらしい現場の力があることでした。この力を活かせればこの会社は必ず再生できる、と確信したのです。上からの指示を待つのではなく、それぞれの現場で自ら考えて、判断し、行動して、最後までやりきる。そうした動きが出てきた時に組織の力が最大限に発揮されると私は心底信じていました。それは自分が育った会社で培われた信念でもあります。
従業員たちは、私のことを自分たちの会社に日本の親会社から送り込まれてきた再建役として、懐疑的な目で見ています。彼らをその気にさせるにはどうしたらよいか。数字で管理するだけでは人は動かない。自分の心からの信念として、その会社を再生するために必要なことを語り、従業員の賛同を得ようと思いました。自分のアイデンティティでぶつかっていくしかない。そこで、毎月のように約1000人の社員全員で集会をし、「我々の強みを発揮すれば世界中で勝負することも可能だ。必ずできる」ということを現場の人たちに語り続けました。
この経験を通じて学んだのは、このような修羅場で最後に拠り所になるのは、自ら信じること(=アイデンティティ)だということです。先輩たちから受け継いできたDNAといってもよいでしょう。それが自らが一歩踏み出す原動力になるのです。