機略縦横の辣腕コンサルタント。そんなイメージで語られる黒田官兵衛だが、現実には黒田家という組織を率いる「社長」であり、実践家。なによりも戦国時代には珍しい忠義の人だった。彼がもし現代日本の企業社会に蘇ったら?

処世術[5]自分の悪評が職場でウワサ

写真=amanaimages

オーナー社長のもと、入社以来ずっと陰日向なく働き、専務まで上りつめたY氏。相変わらず骨惜しみせずに働き続けているが、最近、70代に入った老社長の視線が心なしか冷たい。気にしていたある日、取引先から冗談交じりにこんな話を聞かされた。

「Yさん、次の社長を狙っているんだって? いまの社長はお年だから、一気に若返ったほうがいいと思うよ」

言われて、ハッと思い当たるY専務。社長はもしや、自分がY氏に追い落とされると懸念しているのでは? そんなことをするつもりは毛頭ないが、もしかすると職場や取引先に、Y氏に関する悪いウワサが流れているのかもしれない……。

官兵衛だったら、どう対処するでしょうか。おそらくウワサの元を断つべく、現在のポストをはずれ、異動を願い出ると思います。

組織の中で悪評が流れるのは、危険視されているサインです。たとえその内容が根も葉もないものであっても、そうした評判が流通してしまうこと自体に問題があります。「あいつならやりかねない」という認識が広まっているということだから、おろそかにしてはいけません。かといって無理に釈明しても、相手がウワサであるだけに、事態は簡単には改善しません。そもそもの元を断つ必要があるのです。

「次に天下を取るのは官兵衛だ」

すでに天下人になっていた秀吉が、側近に向けてこう述べたという話が残っています。伝え聞いた官兵衛は、隠居を決意したといわれます。官兵衛自身に出世意欲や権力欲はなかったものの、能力が高く人望が厚いゆえに、秀吉の側近ばかりか、秀吉本人にまで危険視されていることを悟ったからです。おそらく、「このままでは黒田家が危うい」と考えたのでしょう。

では、いかにして黒田家を存続させるか。その策が家督相続だったのです。といっても、完全に引退するわけではありません。会社でいえば、社長を譲って会長になるようなものです。

Y氏のケースでいえば、専務を辞任し、ラインを外れたスタッフ部門に移ることを、自ら申し出るといった形になるでしょう。