根性営業から脱皮も「ヤンキー魂」は不滅

リクルートの強みは、利益と合理性を徹底的に追求する企業文化だろう。「利狂人」「理狂人」という当て字があるとも聞いたことがある。創業者の江副氏は圧倒的なカリスマをもち、一時期は「カリスマ社員」の活躍も目立ったが、そうした個人に依存するのは、経営として危なっかしい。営業や商品作りはシステマチックに、投資は合理的に行う。それが今のリクルートだ。「メディア」と「営業マン」が付いた投資会社のように変身した。総合商社が貿易から事業投資にシフトしたのに近い。方針に疑問を抱いた人は出て行く。うまい具合に血は入れ替わる。

最近は国内、海外を問わずM&Aに積極的だ。新規事業は自前にこだわらない。これからは営業力よりIT力だとみれば、理系人材を大量に採用し、そこに社運をかける。

言ってみれば、グローバル化もIT化もM&Aも、日本企業はどこも意識していることで、これがユニークな戦略だとはいえない。ただ、なりふりかまわず、利益、合理性、効率を追求する。その実行力の強さ。戦略と戦術のすり替え。言ってみれば、「ヤンキー魂」のようなものがリクルートの強みだ。

社内では四半期ごとに「キックオフ」と呼ばれるイベントをひらく。目標達成をみんなで褒め称え、事業責任者が次期の目標を「所信表明」のようにスピーチする。最後は「◯◯するぞ」「オー」という掛け声で締める。私が在籍していたとき、それは暴走族の集会のようにみえた。上場が承認された際、峰岸真澄社長は「人材派遣、人材紹介で世界一を目指す」とコメントしたが、これもヤンキーの全国制覇物語のようだ。

上場後も、そのヤンキー魂で世界制覇を目指すのだろう。ただし、大変に小物感のある社員を率いて。ヤンキー魂は昔も今も変わらないが、今はその鼓舞すらもシステマチックに行われている。

「元リク」も、そのうち「元ヤン」並みのブランドになっていくだろう。いや、もうなっている。仮にブームが再来したときも、それは今までの汗くさい営業マン、人事マンではなく、ひょうひょうとした事業プロデューサー、IT人材などだろう。

あのリクルート事件で世間を震撼させたいかがわしい企業の上場という奇妙な冒険は、暴走族の解散式のようだ。これからもヤンキー魂だけは持っていて欲しい。夜露死苦。

※1:えぞえ・ひろまさ。リクルート創業者。1936年生まれ。東京大学教育学部在学中より求人広告の仕事を手がけ、23歳で 大学広告(現リクルート)を創業。88年にリクルート会長を退任。2013年死去。著書に『リクルート事件・江副浩正の真実』(中公新書ラクレ)などがある。
※2:現在、リクルートHDの株主構成は公開されていないが、持ち株会社制に移行前の2011年3月期時点では、「リクルート社員持株会」の所有割合は13.89%で筆頭株主となっている。

【関連記事】
本当の「ブラック企業」とは、どういう職場か
独立・起業できる会社図鑑
30代後半~45歳:うまくいかない人への処方箋
引く手あまた「黄金の学生」伝説のウソ
上場ベンチャーの「良い面、悪い面」