リクルートはとにかく採用活動に力を入れていた。創業者の故・江副浩正氏(※1)は「我々に続く人は我々より優秀でなければならない」「人を採れ、優秀な人材を採れ、事業は後からついてくる」などの言葉を残している。優秀な学生を探し出し、狩りのように採用するのである。江副氏が退任した後も、自分たちより優秀な人材を採ることにこだわり続けた。
また若い人にも大きな仕事を与える風土がある。優秀な人材は早くから抜擢するので、筆者が在籍していた約10年前から、20代の管理職は存在した。
しかし、だからといって「優秀な人が多い」とは言い切れないだろう。それは「著名人が多い」ということに過ぎない。裏を返せば、独立しやすく目立ちやすいというだけだ。
リクルートには以前、「独立支援」という名目の退職時の支援金の制度があった。私は31歳のとき、退職金とは別に1000万円の支援金をもらっている。現在、「元リク」として知られる人たちの多くは、こうした恩恵を受けている。
さらに「社員持株会(※2)」が存在し株価が上がり続けていたため、取得者は在籍年数が長いほど含み益は大きくなり、退職時には数千万円の売却益が得られるケースもあった。つまり、独立資金に困らない環境なのだ。
リクルート流の仕事術に注目が集まっていたころは、実績のない人でも簡単に著書を出版できた。本は「セルフブランディング」のツールになる。本人がどこまで関わったか分からない案件についても、自著では「オレの実績」になってしまう。私は「アレオレ詐欺」と呼んでいる。
つまり、「目立っている人が多い」という事実が、「人材を輩出している」というイメージにすり替わっているのではないだろうか。
そもそもなぜ辞めたのだろう。意地悪な言い方をすれば、社内で出世を目指すより、独立したほうがはやいと考える人も多かったのではないか。リクルートでは退職を「卒業」と呼ぶが、実際は「中退」に近い。
他方で「元リク」ではなく、現役の社員はどうだろうか。周囲では「リクルートも、みんな普通の人になりましたね」という声を聞く。私の実感にも近い。率直にいって、みんな普通の人になっている。現在の業容を考えれば、それでいいのではないかとも思う。