新聞の記事は役人のレジュメの引き写し

だが、この家計調査をまともに信じ込んでいる人がいる。それは大手新聞社の新聞記者だ。新聞記者たちは、お役所の発表には何の疑念も持たないらしい。だから平気でこんな記事を書いている。

「総務省が発表した2012年の家計調査(速報)によると、1世帯(2人以上)あたりの貯蓄の平均は1658万円で、前年より6万円減少した。昨秋までの株式市場低迷で、貯蓄のうち有価証券(株式など)の額が減ったことが響いた。貯蓄のある世帯のうち、世帯数で全体の真ん中に位置する世帯の残高(中央値)は1001万円で、前年より10万円増えた。高額貯蓄世帯の影響を受けやすい平均値に比べ、中央値は家計の実感に近いとされる。一方、負債の平均は469万円で、7万円増えた。東日本大震災の影響で住宅ローンが減少した前年の反動で増加に転じた。負債のある世帯の中央値は862万円で、前年より26万円減った」(読売 2013年5月27日)

この記事を読んでも、最大多数派は「貯蓄100万円未満」であることは一切触れられていない。見出しにあるのは「世帯貯蓄平均1658万円 総務省家計調査」という文字だ。記事の内容は、総務省の役人が書いたレジュメの引き写しだ。この記事では日本社会の現実を表しているとは言い難いだろう。

そもそも、貯蓄がこんなに多額にあったのなら、日本は金満国家であり、どこにもワーキングプアはいないはずだ。

新聞記者は日頃、記者クラブというところに詰めている。そこには役所や大手企業が発表にやって来る。その発表内容を記事にすることを、新聞記者の世界では「発表モノ」という。毎日発表モノを記事にすることに追われている記者もいる。だから経済面の多くが今では発表モノで占められるようになった。

発表モノは、当然のことながら、発表する側のニーズがある。記事に採り上げて欲しいし、記事になるなら、こう書いて欲しいというニーズである。だから、発表モノばかり増えてしまうと、紙面が発表モノで埋め尽くされて、結果として情報操作されたような状態になってしまう。

今年はアベノミクスということで、ベアとか賃上げが話題になった。政府は「企業の何割もベアを実施した」という発表を行うことで、政権に対する支持率を維持するのに懸命だった。だから新聞には連日のように賃上げ報道が載った。

だが、多くの人はその記事を読みながらピンと来なかったのではなかろうか。大多数の人はベアの恩恵に浴していないので好景気の実感が沸かないに違いない(過去記事:4割が「賞与ほぼ0円」なのに“上昇”報道の不可解、参照 http://president.jp/articles/-/13256)。

「新聞は社会の木鐸(ぼくたく)たれ」という言葉がある。 木鐸とは、世人に警告を発し教え導く人のことだ。その木鐸たる新聞記者が、あたかも役人の下請けになって、その意のままに記事を書くことだけは止めてもらいたい。新聞記者だったら、ナマの情報を足で稼いで欲しい。

▼編集部おすすめの関連記事
なぜお金に好かれる人は「家計簿をつけない」か