最大多数派は「貯蓄100万円未満」
データの分析と解説にも疑問がある。家計調査を見ると、貯蓄残高(貯蓄現在高-負債現在高)は、金額別に区分して世帯数が集計されている。下は100万円未満から、上は4000万円以上までだ。その2人以上の世帯数の平均貯蓄高が1658万円になるらしい。
だが、データをじっくり見ていると、最大多数派は「貯蓄100万円未満」であり、それが10.6%を占めている。「100万円~200万円未満」が5.9%で、「200万円~300万円未満」が5.6%で、合計すれば22.1%が300万円未満である。この一方で「貯蓄2000万円以上」(27.3%)も少なからずいる。つまり、貯蓄が少ない人と多い人とで極端に二分されているのだ。
このような分布になっている場合、「平均値」を出すとどうなるのだろうか? 「平均値」は「合計÷人数」ということで出すので、大きい額に引っ張られて高めの数字が出てしまう。それが平均貯蓄高が1658万円になるのだ。しかも、前述のように、家計調査は2人以上の全世帯の0.02%にしか聞いていない代物なのだ。
著者は、自分自身でも「ズバリ! 実在賃金」という賃金調査を行っている。中小企業の賃金実態を、賃金明細を元にチェックして、調査研究をしている。その経験から言わせてもらえば、大事なのは「平均値」ではなく「分布」だと考える。「多数派の人がいくらもらっているのか?」が大事だからだ。
この家計調査のデータを見た場合、著者ならば「最大多数派は貯蓄100万円未満」であることに着目し、そこをポイントにするだろう。その方が、人々の実感に近いからだ。
ここまでの解説で、家計調査というものがいかに参考にならないかを理解して頂けたと思う。はっきり申し上げて、こんなもので「日本の現実」を正しく判断することはできない。
こんな家計調査は、著者に言わせれば“お役所仕事の見本”だ。言ってみれば、事業のために事業をしているようなものだ。もっと言えば予算消化のための事業である。