【アタリ】それともう一つ危険なこととして、民主主義の枠組みにおいて、ある種の社会的な安定が構築できなくなった際に、これは明日、明後日に起こるというわけではありませんが、民主主義を犠牲にしてまでも社会的な安定を求める者たちが現れることです。移民排斥運動、極右勢力の台頭などです。このとき、国家債務の問題はまさに民主主義体制の弱点を映し出す鏡になる。日本の債務問題を解決する唯一の方法は、社会制度を変革することだと思いますが、果たして日本にはそれを実行するだけの器量があるでしょうか。

【大前】古代ギリシャで民主主義の基盤を担ったのは情報を充分に与えられた知識階級です。ギリシャ社会で暮らすのはこうした人ばかりではなく、選挙権のない人もたくさんいました。しかしながら現代社会においては国民全員が選挙権を持つことは民主主義の基本であり、狡猾な政治家に扇動されたり、情報や知識が乏しい人々も投票することができる。だから世論はマスコミや国民の気分次第で、いとも簡単に左から右へ変化してしまう。

政権に失望した民衆は選挙のたびに反対側に投票する傾向があり、これが二院制ではねじれの原因となっています。前に進むどころか同じところをぐるぐる回っています。

【アタリ】フランスの政治制度は、現在の日本のように機能不全を起こしてしまうほど悪くはありません。大統領には5年の任期があり、この間、大統領は政権を維持できます。もっと長くていいのかもしれませんが、それでも5年というのは短すぎるわけではない。国民から充分な支持を得るまで、じっくりと時間をかけて政治に取り組むことができなければ、何事も果たせません。

なぜならば改革の対価となるメリットが明確にされない限り、国民は改革を受け入れようとしないからです。長期的なメリットを説明せずに、単に辛抱してくれというだけでは、国民は改革を支持しないでしょう。まずは政治家が国家の将来像をきちんと提示できるようにならなければなりません。

(小川 剛=構成 林 昌宏=編集協力 大沢尚芳=撮影)