他社が真似できない「原則社員」の体制
ここで、スタッフの社員雇用が理想だ、というのは、それがスタッフの技能向上のために最善と思われているからです。スタッフの高い技能はよい作品の必須条件であり、よい作品であることは市場で成功するための必要条件です。そこで、スタジオジブリではアニメーターを、原則として社員雇用しています(※2)。そのため、社員数だけを見れば、テレビシリーズやアニメ映画を手広く手がけるサンライズ(224人)やIGポート(213人)を超える300人規模に達しています。このあたりに、どちらも東映動画労働組合に深く関わっていた宮崎監督と高畑監督の理想主義を見出すこともできるかもしれません。
もしもアニメ制作会社がこの社員雇用体制を実現しようとするなら、なんといっても経営の安定化が最大の課題です。そのための方策は、一本のコラムでは書き切れないでしょう。個々のプロジェクトデザインとしては有力マンガのアニメ化を志向したり、メディアミックスを大規模に行ったり、あるいは経営手法的には制作本数を増やしてリスク分散を図ったり、他社下請けを積極的に行って日銭を確保したり、プロジェクトごとに投資組合を組成する「製作委員会方式」を開発したり、いろいろなことをやってきました。これだけで本が一冊書けます。
映画制作に特化し、寡作でもあるスタジオジブリが経営を安定化できた理由は、なにより宮崎監督作品の強さでした。国内興行収入を基準に見てみると、そもそも宮崎監督作品は他の監督の作品よりもいい成績を残していますが、『もののけ姫』以降この差異はかなりはっきりとしたものになります。つまり、宮崎監督作品の成功で、他の作品の「不振」をならしているわけです。
ただし、これはあくまで興行収入ベースの話であり、制作費を考慮していません。社員の人件費は制作費換算されるでしょうからあまり考慮する必要はないようにも思えますが、やはりスタジオジブリという企業の経営を考えれば、制作費を含めた諸費用を控除し、利益ベースでみないといけないでしょう。この点でも、鈴木プロデューサーは『風立ちぬ』について「おかげさまで120億くらいの大ヒットですけど、それでも赤字なんですよ」と発言しており、宮崎監督の制作費使いが荒いのか、製作委員会内で収益配分を十分うけられていないのか、理由は定かではありませんが、やはりそう儲かってはいないようです。