特定秘密保護法で国民を逮捕?

原発や米軍基地の取材中、相手との話が次のような展開となった。

《ある人が大手製造メーカーとの仕事の関係で手にした書類は、原発の安全対策に重大な欠陥があることを示すものだった。放っておけば、もしかしたら福島第一原発事故のような巨大災害が起きるかも知れない。そこで、彼は報道関係者を通じてその危険性を一般の人々に広く知らせようとした。「原発事故で放射性物質が拡散すれば人は外部被曝と内部被曝を受け、それは命に関わる危険なものである」という知識は、人類にとって公知のものだからである。

ところが、危険を知らせようとした彼は、いきなり逮捕・起訴され、懲役刑となる。その書類の一部は政府が「秘密」に指定したものだったからだ。しかし、具体的に何がどう秘密なのかも非公開とされているため、本人はそもそも何が違法な行為かさえ知らなかった。ただ、人々に危険を知らせようとしただけである》

《また、ある人が飛行場建設の作業中、機材納入車の運転手との雑談で興味深いことを聞いた。その業者の親会社は、防衛省の高官も天下っている大手ゼネコンの系列企業で、米軍基地の付帯建築物も請け負っているという。契約にはなぜか外資系企業がからんでいたという。

作業帰りに現場付近の飲み屋でそのことを仲間と話していたら、たまたま別席にいたゼネコン社員を通じて翌日には政府の役人にも伝わり、数日後に仲間とともに逮捕される。逮捕された彼らは知る由もなかったことだが、その工事業者は日米両政府の密約に水面下で関係しており、業者名や納品内容などは秘密指定されたものだったのだ》

以上は、いまのところ「架空の話」である。多くの人は、まさか現在の日本でそういう逮捕などあり得ないと思うことだろう。しかし、こうしたケースで国民を逮捕し刑罰を与える法律がすでに法制化され、施行を待つだけとなっている。安倍政権が昨年末の国会で強行採決した「特定秘密保護法」である。

国内ではこれまでに弁護士やジャーナリストらが3件の違憲訴訟を提起している。また、戦後から現在に至るまで日本の情報が筒抜けとされる米国でさえ、同法に警鐘を鳴らす声があがっている。米政権中枢の要職を歴任したモートン・ハルペリン氏は、「日本の同盟国や緊密な関係にある国々の中で最悪の法律」「何を秘密に指定してはいけないかとの指標が欠けているのは致命的」と鋭く指摘。国連の自由権規約委員会も「情報へのアクセス権を定めた規約19条」に反しているとして、日本政府に対し「基本的人権」と「表現の自由」を守るよう強く勧告中だ。