燃料電池車の普及は遠い未来の物語

結論から言えば、水素エネルギーがエネルギーインフラのメインストリームとなり、燃料電池車が今日におけるEVのように多数走るようになるのは、依然として遠い未来の物語であるということに何ら変化が起こっているわけではない。これは自動車業界、エネルギー業界で研究開発の最前線にいるエンジニア、サイエンティストの多くが共有している認識だ。

燃料電池車の実用化を阻む要素としてよく、小型化しやすく自動車用の動力に向いている固体高分子型燃料電池が貴金属である白金を使用するため資源量の制約を受ける、白金を使用するため製造コストが高い、水素供給インフラが整っておらず、限られたエリアでしか使用できない――といったことが取り沙汰されるが、これらは実は一般に考えられているほど大きな問題ではない。

たとえば白金。「地球上に数万トンしかない白金を燃料電池車などに使ったらあっという間に枯渇するのではないか」という声やよく聞かれる。が、実はここに可採埋蔵量のトリックがあると語るのは、生産技術研究所サスティナブル材料国際研究センター長でレアメタルに詳しい岡部徹氏。

「地球はそんな小さなものではない。白金の存在量は実は100年分以上あるんです。100年というのはこれ以上カウントしても無駄という意味で、資源自体の枯渇を心配するような状況ではない。可採埋蔵量を少なく見積もるのは、資源をコントロールしている国際資本の常套手段ですから」

もちろんコストの問題は残る。「白金は1トン掘り出した鉱床のなかにパチンコ球1個分くらいしか含まれておらず、採掘して精錬するコストが1グラムあたり2000円ほどかかる。現在、白金の国際相場はグラム4000円くらいですが、それが大幅に下るということは考えにくい」(岡部氏)という。