水素は取り扱いの難しいエネルギー

今日、技術革新によって燃料電池の出力1kWあたりの白金使用料は1グラムを大きく下回るようになっているが、それでもかりに燃料電池車1台に50グラム使うとして、白金だけで20万円。これだけで大衆車用エンジンの10倍程度のコストである。が、もともとエンジンの価格が高い高級車向けの動力として使うならば、そのコストも十分に吸収可能であろう。また、白金に置き換えられる安価な代替材料の研究が世界で進められており、何らかのイノベーションが起これば燃料電池の価格が大衆車用動力として使用可能な水準に下がる可能性も出てくる。

燃料電池車の実用化が難しいと多くの科学者、技術者が考える理由は、実は車側の問題ではない。かといって、水素供給インフラ整備の問題でもない。燃料電池車がユーザーにとって大金を払ってでも乗りたいという商品になれば、インフラは最初にある程度補助金を注入してブーストをかけてやることで自ずと整備が進むはずだ。

燃料電池車の前途に待っているのがバラ色の未来ではなく茨の道と言われる最大の要因は、実は動力用の燃料である水素そのものにある。加藤副社長は「水素は200年以上前に街灯の燃料として使われ、今はロケットの液体燃料から工業原料まで幅広く利用されている身近な物質」と、利便性をアピールした。

そんなに便利なものなら今日、燃料としてもっと普及していてもいいはずだ。石油やガスを改質したり水を電気分解することで水素を生産するのはエネルギー効率上もったいないが、少なくとも石油精製や製鉄所のコークス炉で副産物として発生する膨大な量の水素は一次エネルギーも同然なので、工業原料としてだけでなくエネルギーとしても利用する潜在価値は十分にある。

実際にそうなっていないのは、水素がそれだけ取り扱いの難しいエネルギーだからである。トヨタが今回発表した新型燃料電池車はいわば第3世代で、燃料電池車はすでに限定的ながら日本の道を走っている。90年代に本格的な実用性を持つ第1世代燃料電池車が試作車として登場。2002年にはトヨタとホンダが政府向けに公道での使用に耐えうる第2世代の燃料電池車を納入した。