燃料電池車の産業は「日本的な擦り合わせ技術」を生かせる

燃料電池ナノ材料研究センター 
センター長 渡辺政廣

燃料電池の研究開発のインパクトは、思わぬ地域にも広がりをみせている。

燃料電池(FC)の研究拠点として、08年4月に山梨大学のキャンパスに「燃料電池ナノ材料研究センター」が設置された。ここでは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託を受けて、「HiPer-FC」プロジェクトが進められている。7年計画というこのプロジェクトは、当初予算70億円で現在、最終年度の事業が進行中だ。

研究センターの規模は、教員数20数人で構成され、トップを務めるのが渡辺政廣センター長である。渡辺は、山梨大工学部助手だった68年にFCの研究をスタートして以来、半世紀近くをこの道一筋できたスペシャリストだ。

研究体制は山梨大を中心に、カネカ、東レリサーチセンター、富士電機ホールディングス、田中貴金属、島津製作所、パナソニック、早稲田大学などが参加する大型プロジェクト。加えて、ホンダと日産自動車が成果活用共同研究、トヨタが情報交換という形でプロジェクトに参加していて、定置型のFCだけでなく燃料電池車にも力を入れる。

研究センターの研究実績として特許の取得件数を見ると、これまでに取得した特許は35件(うち国際特許23件)にのぼる。このほか、出願中の特許は国内外で60件を数え、すべてを合わせて100件近くに達する。個人所有の特許数では世界一を誇る渡辺だが、日本が国際標準で先行する意義を、次のように評価した。

「日本が最初に開発したFCの流れを、今後も変えずに商品開発につなげていくのは、大変素晴らしいことです。そういう意味で、世界の安全基準も日本の現状を背景に検討されているわけですから、大変意義があります。現在、電気自動車の充電器の規格が2つに分かれていて、二重投資が避けられない現状ですが、日本の燃料電池車の開発は、間違いなく海外の一歩先を行っていると思います」

燃料電池車は電気自動車と違って構造が複雑なため、部品や材料を微調整する「日本的な擦り合わせ技術」を生かせる産業になると見られている。特許の出願数も膨大なため、新規参入企業が簡単に真似できる世界ではなく、ある程度の規模を持った企業でなければ量産体制を築くのは難しい。平たく言うなら、モジュールを買ってきてプラモデルのように組み立てれば商品になるモノづくりとは明らかに一線を画し、今後の研究開発いかんによっては、日本が本来得意とする新たな自動車産業に育つ可能性が十分にある。これから先、自動車産業で世界的な地位を保つことができるかどうかは、燃料電池車市場の覇権争いで勝てるかどうかにかかっている。

(文中敬称略)

(的野弘路、宇佐美雅浩、青沼修彦、永野一晃=撮影)
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