20世紀はクルマの時代だったと言われるが、21世紀も「水素エネルギー」の出現で、自動車業界が激変する可能性が高まっている。新たな“富”を生むビジネスの最前線に迫る――。

FCVの価格は、「1000万円以下に抑える」

埼玉県庁の敷地内に、最新鋭の水素ステーションが設けられている。将来の水素社会をにらんで、ホンダが独自開発した「ソーラー水素ステーション」だ。これは、究極のクリーンエネルギーを追求する実証実験の場でもある。

県庁の屋上に設置した太陽電池で発電し、この電気で水道水を電気分解する。水を電気分解すると水素と酸素が発生するが、この仕組みを利用して水素をタンクに溜めておいて、燃料電池車(FCV)に充填する。石油や天然ガスなどの化石燃料から水素を取り出す場合、二酸化炭素(CO2)が発生するが、このシステムだとCO2排出ゼロと、真のクリーンエネルギーを利用できる点に特徴がある。

FCVは別の用途にも使うことができる。インバータボックスを積み、車で発電した直流の電気を交流(100ボルト)に変換させれば、家庭やオフィスなどの電源として使用可能で、非常用、災害用の外部給電装置としての役割も担うことができる。システムの開発を手掛けたホンダの岡部昌規・第5技術開発室第4ブロック主任研究員は、

「一般家庭の6日分に相当する電力を供給することができる」

と、スマートグリッドの機能を強調した。

日本は、水素社会実現への一歩を2015年に踏み出そうとしている。ホンダとトヨタ自動車の両社が、FCVの販売を開始することを明らかにしているからだ。15年を日本の「燃料電池車元年」とすると、どのような市場が形成されていくのか。FCV開発の最前線を担う両社の担当者の発言から、その姿を展望してみることにしよう。

水素と酸素を反応させてできた電気で走行する燃料電池車だが、一足先に実用化された電気自動車(EV)と比べ、充填時間が短いうえに航続距離が長いアドバンテージがある。EVは急速充電器を使用しても30分程度必要だが、FCVの充填時間は3~5分で済む。さらに航続距離は、満タン充填の状態で、EVが200キロメートルに対し、FCVは500キロメートル以上と、大きな差がある。肝心の価格について、両社とも「1000万円以下に抑える」と話す以外は、明確な水準は明らかにしていない。