借り物の言葉はなぜ、伝わらない?

大手企業の経営者にインタビューすると、横文字のビジネス用語が飛び出し、こちらも身構えることが多いが、鈴木氏の話には不思議なくらい横文字が出てこない。その理由を本人はこう話す。

鈴木敏文●セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEO。1932年、長野県生まれ。中央大学経済学部卒業後、東京出版販売(現トーハン)入社。63年イトーヨーカ堂入社。73年セブン-イレブン・ジャパンを創設して日本一の小売業に育てる。2005年セブン&アイ・ホールディングスを設立する。

「私も、マーケティングとかコンセンサスとか、日本語と同じように使われる単語は使いますが、それ以外の横文字は話の中には入れません。相手が一瞬でも、それはどういう意味かと考えてしまう言葉は聞いているほうが疲れてしまうからです。話をするとき、けっして聞き手を疲れさせてはいけません」

鈴木氏はかつてニューヨーク出張時、ホテルのエレベーターで「トゥエルブ」といったつもりが通じず、「自分では今後一切英語は話すまいと決めた」という逸話も残るが、高校時代は英語劇を演じたり、アメリカの高校生と文通もしていたから、英語嫌いなわけではない。横文字を多用しないのは鈴木流の「格好をつけない話し方」の基本だ。

「日本語でもよく、高邁な難しい言葉や用語を使う人がいます。聞き手も、この人は難しいことを話す人だと、場合によっては尊敬されるかもしれません。でも、多くの場合、もう一度辞書を引かなくてはわからないような言葉は相手を疲れさせるだけで、あまり効果はないでしょう」

実際、ある新聞社が内外の著名経営者を集めたシンポジウムを開催し、講演をインターネットで流したところ、鈴木氏の講演へのアクセス数が最も多かった。他の経営者の講演が経営学の論文のような内容だったのに対し、自身の経験をもとに独自の考えを説く「わかりやすい話」に人気が集まった。

「よく、人前で話をするとき、何かの本を読んで、使えそうな話を引用しようとすることがあります。“こんな人がこういうことをいっていますが、これはこういう意味ではないでしょうか”といった具合に自分で咀嚼して話すならいいでしょう。ところが、いかにも自分の考えや言葉であるかのように話す人がいます。ぜんぜん説得力がなく、これも相手を疲れさせるだけです」