覚悟なきトップが組織を腐らせていく

理研の経常収益は約1040億円(平成24年度)。製薬企業ならツムラ、キョーリン、大正製薬など中堅製薬企業と同レベルだ。理研の業務が研究だけであると考えれば、エーザイ(年間研究費が約1200億円)と同規模ともいえる。

笹井氏は、理研の発生・再生科学総合研究センターのナンバー2だ。一般企業に例えれば、理研本部はホールディング・カンパニー、発生・再生科学総合研究センターは事業会社に相当する。つまり笹井氏は、一つの事業会社の副社長である。STAP細胞の論文に限らず、センターの経営一般に大きくかかわってきたと考えるのが普通だ。

現に、記者会見では、小保方氏をユニットリーダーとする抜擢人事にかかわったと明言した。また、発生・再生科学総合研究センターの運営方針について、若手研究者の契約更新に際し、厳格に業績を評価すると説明している。

研究機関の経営には様々な方法があるが、理研の発生・再生科学総合研究センターでは、若手研究者を厳しい競争環境におくことで、研究業績を上げるという戦略を採ってきた。本来、権限を有する者は、自らが下した判断に関して責任を負う。これは株式会社だろうが非営利の研究機関だろうが同じだ。笹井氏が、小保方氏の任命責任および論文不正の責任を負うのが当然だ。

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発言からは「理研のリーダー」としての自覚が感じられない(写真=時事通信フォト)

ところが、彼の発言からは、そのような自覚は感じられなかった。「副社長」ともいえる立場でありながら、「自分は理研のリーダーではない」と思っているように見えた。これは、おそらく笹井氏の本音なのだろう。理研のように官庁と密接に関連する国立研究機関では、官僚機構と現場のスタッフの間で、責任の所在が曖昧となりやすい。組織のトップは研究者なのだが、官僚の助言に従い決断を下しているため、どうしても責任感が希薄となる。そして、このような「無責任体制」が多くの不祥事を生み出す土壌となってきた。再発防止のためには、まず国立研究機関の意思決定システムの変更を検討するべきだろう。

一連のSTAP細胞問題を受けて、「研究不正の再発予防のために、全ての著者は、生データから論文の内容まで把握すべき」という主張を散見する。しかしながら、この主張は説得力を欠いている。規範論を強調することで、短期的には合意を形成できるだろうが、実効性がない。先端的な研究で専門外のことまで、チェックすることはできない。