確かに笹井氏の説明は理路整然としていた。具体的なデータを挙げて、「STAP現象を前提にしないと容易に説明できない部分があります」、「STAP現象は最も有力な仮説」と主張した。ただ、私はこの記者会見に違和感を抱いた。それは、笹井氏が自己弁護と責任回避に必死のように映ったからだ。笹井氏は記者会見で「最後の段階で論文仕上げに協力しただけ」で、「実際に指導したのは若山照彦・山梨大学教授である」との主張を繰り返した。

ところが、この発言は、論文の記述とは異なる。ネイチャー誌に掲載された2つの論文の末尾には、笹井氏は原稿作成だけでなく、研究をデザインし、実際に実験を行ったと明記されている。そして、第二著者および第三著者として2つの論文を発表している。いずれの論文でも、筆頭著者は小保方氏だが、笹井氏は研究チームで名誉ある地位を占めていたことになる。笹井氏は、自ら論文をチェックしたと言っているのだから、記者会見の説明を信じれば、「最後の段階で論文仕上げに協力しただけ」なのに、「研究をデザインした」と嘘をついたことになる。

実質的には研究や論文作成に協力しなくても、研究室運営などの立場の者が、論文の著者に名を連ねることを「ギフト・オーサーシップ」と言う。科学誌では、「ギフト・オーサーシップ」は厳しく禁止されているが、筆者はこの観点から、笹井氏を強く批判しようとは思わない。多くの専門家が連携する共同研究をまとめるには、笹井氏のような実力者が調整することが欠かせないからだ。現実には、研究の計画や実験に参画していなくても、著者の1人に名を連ねることはあり得る。

ただし、このような指導的立場の研究者が、「ギフト・オーサーシップ」を貰っておきながら、部下に責任をなすりつけようとするのは頂けない。これは管理職としての責任を放棄したことを意味する。まさに、これこそ、笹井氏の最大の問題だ。