重要なのはスキルよりも「志」の共有だった
ソフトメーカーからは僕たちよりも高く買って、販売店には僕らよりも安く卸す。当然、メーカーからは「こいつらいいヤツだ、高く買ってくれる」と喜ばれ、販売店からも「いい人たちだ。安く卸してくれる」とありがたがられる。結果的に僕たちの「取引口座」もかなりかすめとられました。
しかし、現在ではその会社は存在しません。94年にカテナ(現システナ)に吸収合併されました。採算ギリギリの低マージンで先行する僕たちを追撃したものの、91年以降、景気低迷などで風向きが変わるとそれまでの無理な営業のツケが噴出したのです。
この一件で痛感させられたのは、会社を持続可能的に成長させていくためには、営業手法などのスキル以上に、会社としての志をいかに社員と共有するか、ということの重要性でした。
こうした裏切りのストーリーは小説やドラマの定番ですが、裏切った人たちが後々に成功するという筋書きは、あまりありません。結局のところ、目先の利益にとらわれた経営ではいずれ行き詰まり、ともに働く仲間からも見捨てられてしまうのでしょう。
東京大学経済学部教授 高橋伸夫氏が解説
「裏切り」にあたるかどうかは当事者の受け取り方による。だが禍根を残すことがあれば、事業の継続性が危うくなるだろう。倫理観を疑うような「裏切り」であれば、部下はついてこないし、一時的についてきても「失敗した」と思うようになる。一般的には「一緒に仕事をした」という経験の有無が大きいようだ。このケースは孫社長が病気で不在だったときのトラブルだったため、「裏切り」の要素が大きくなったのではないか。
●正解【A】――志の違う人間を引き留めても、結局、事はなせない
※本記事は2010年9月29日に開催された「ソフトバンクアカデミア」での孫正義氏の特別講演をもとに構成されております。設問文等で一部補筆・改変したものがあります。