人を欺き金を稼ぐモンスターたちに待ち受ける末路

〈俺たちがやりたいのは単なる金儲けじゃない。自分の考えが正しいことをカラ売りを通じて立証したいだけだ〉

実態より業績を良く見せかけ投資熱を煽る企業の欺瞞を暴き、市場に警鐘を鳴らす。黒木亮の人気シリーズ「カラ売り屋」の最新刊『マネーモンスター』が好評だ。

黒木 亮
黒木 亮(くろき・りょう)
経済小説家。1957年、北海道生まれ。ロンドン在住。早稲田大学法学部卒業後、カイロ・アメリカン大学大学院(中東研究科)修士号取得。銀行や証券会社、総合商社に23年あまり勤務後、2000年に『トップ・レフト』で作家デビュー。

通常の投資は株価が低いときに買い、上昇時に売るが、カラ売り屋はその逆をいく。そもそも自らは株を持たずに借りた株を売る。狙うは不正な手法で業績と将来性を喧伝する上場企業だ。財務諸表を徹底的に読み込み、詳細レポートでカラクリを解き明かす。投資家らに警告し、株価暴落のタイミングで株を買い戻すのが彼らの手法だ。

「最初にカラ売り屋の存在を意識したのは2002年『青い蜃気楼 小説エンロン』を書いたときでした。当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった巨大企業エンロンの粉飾決算を暴いたのが、著名カラ売り屋、ジェームズ・チェイノスでした」

仕手筋が力ずくで違法な相場操縦を目論む日本の伝統的カラ売りとは異なり、「市場の番人」とも評されるカラ売り専門ファンドは、米国では50以上存在するという。

「米国は訴訟大国ですから、中途半端なやり方では逆に名誉棄損で何十億円も取られます。法に触れない限界ラインで大企業に真剣勝負を挑む彼らは、自らも巨利を手にするため、決して清廉潔白なヒーローではありません。知的で粘着質な拗ね者、でも市場の歪みを正したい信念もある。その矛盾も魅力です」

綿密な取材に裏打ちされた黒木作品の多くは実話に基づく。『水素トラック革命』に登場する自称「第二のイーロン・マスク」しかり、『地銀の狼』に登場する柳悠次に至っては、「半分は僕」と笑う。「外回りで鬱屈していた僕を引き立て、海外に出るチャンスをくれた支店長を思い出しながら書きました」

『カラ売り屋シリーズ マネーモンスター』 幻冬舎/本体1900円+税
『カラ売り屋シリーズ マネーモンスター』 幻冬舎/本体1900円+税

ウクライナやガザの紛争、世界的インフレなどで市場は安定しない。マーケットは常に予測不可能で「だから面白い」と語る黒木さんだが、ひとつ確実なことがあるという。それは「金融にマジックはない」という鉄則だ。

「先の見えない時代ゆえに、手っ取り早い資産形成を望む人は多いですが、魔法のように一瞬で大金持ちになれる方法なんて存在しません。それを伝えるのも僕の役目です」

まさに小説内でカラ売り屋がつぶやく言葉そのものだ。

(文=三浦愛美 写真=著者提供)

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