私は、生物物理学で博士号を取得した後、理化学研究所で脳の研究を始めた。渋沢栄一によって設立され、ノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹や朝永振一郎など、数々の科学者を輩出した研究機関である。
在籍当時、年に一回の研究所公開があった。脳科学をわかりやすく伝えるため、脳波計測のデモをした。興味深かったのは、頭に電極をつけ、脳波を測ろうとすると、参加者たちが一様に一つのことを気にしていたことである。
「脳波を測ると、頭がいいかどうかわかってしまうのでしょうか?」
そんなことを質問してくる方々が多くいた。実際には、脳波から知能指数がわかることはない。それでも、自分の頭の中がのぞき込まれ、すべてが筒抜けになってしまうのではないかと気にする方が多くいたのは印象的だった。
現代人は、頭がいいかどうかを常に気にしている。頭がいいと言われると自信がつくし、頭が悪いと思ったら落ち込んでしまう。
人工知能が発達するとともに、人類の「頭の良さ」として求められるものも変わってきた。頭の良さにはいろいろな定義があるなかで、人工知能の頭の良さと、人間の頭の良さはどう違うのか考えてみよう。
面白いことに、頭の良さと聞いて一般の人が思い浮かべる働きの多くにおいては、人工知能が人間をすでに凌駕してしまっている。
例えば、記憶力の良さでは人間は人工知能に全くかなわない。顧客の電話番号を覚えるといったタスクでは、人間はせいぜい数百が限度だろうけれども、人工知能は何百万でも問題なく記憶できる。チャットGPTのような大規模言語モデルは、膨大なテクストを読み込んで、その記憶をもとに文章を生成できるので、人間よりも守備範囲がはるかに広い。
計算力でも、人間は人工知能に全く歯が立たない。最近、ある場所でその話をしたら、小学生が手を挙げて、「そろばんも意味がないですか」と質問した。習い事でやっているらしかった。
「指の運動と計算を結びつけるということでは効果がありますよ!」と答えた。ただ、脳トレは別として、ビジネスの現場での実用としては、そろばんは過去のものだろう。
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