全国の需給を予測する「自社開発AIシステム」

さらに同社は、外部のIT企業へ外注することなく、社内にシステム開発部門を設置し、自社でシステムを開発している。このシステムは、全国150社を超える「zero」参画農家から上がってくる毎日の生育・出荷データと、全国120〜130社のスーパーや実需者からの注文データをリアルタイムに照合させる。

「例えば『12月1日から茨城拠点から出荷される長ネギが不足する』という予測が出れば、即座に近隣のパートナー農場から補填する。逆に、供給が過剰になりそうな場合は事前に営業をかけて売り先を確保したり、物が足りていない拠点に運ぶ」

自社での生産を減らし、年間約27億円の流通プラットフォームを核としながら、高品質な苗や資材を販売。AIで需給を最適化する「農業インフラ企業」へと進化を遂げたのである。

清水さんが経営者として他の農家から頼られる理由には、精神論ではなく「明確な数字」で指導している点がある。同社が「zero」の農家へ提示するネギ経営の標準モデルは以下である。

標準目標売上(反収):10アールあたり108万円(出荷600ケース×単価1800円)

1ケースあたり5キロ箱。箱に入る本数は長ネギの太さ(サイズ)によって異なり、Mサイズで約55本、Lサイズで約45本、2Lサイズで約30本が目安となる。地域(関東はLサイズ中心、関西は2Lサイズの需要が高いなど)によって求められるサイズは変わるが、作業効率や利益率の観点から同社が基本として目指すのは「2Lサイズ」。また、1ケース1800円という金額は「葱出荷組合zero」における標準的な買い取り・仕入れ単価(1ケース1800円〜2200円)をベースにした基準数値である。

採算分岐点:10アールあたり486ケース(これを割ると赤字転落)

標準経費率と利益:経費率81%・利益率19%(内訳:人件費25.4%、ダンボール・出荷資材12.6%、苗代10.7%、運賃8.3%、肥料代8.2%、農薬代7.0%など)

単に「600ケースを目指せ」と数字を掲げるだけではない。清水さんは自社圃場での実証実験から確立した「2.5〜4粒まき(従来は2粒が主流)」という密植技術を導入している。

ポイントは、全国一律ではなく「圃場の土質や水はけ、季節に応じて粒数や管理を細かく調整する」点だ。土の体力が高い地域や太りやすい冬場は粒数を最適化しつつ、自社開発の有機肥料や微生物でフカフカの土壌を育てる。

圃場ごとのポテンシャルを最大限に引き出し、病害リスクを抑えながら収益性の高い「2Lサイズ」を揃えて収穫することで、10アールあたり600ケースの基準値はもちろん、800〜1000ケース超という高反収を現実のものにしている。

ネギの苗を作っているハウス
筆者撮影
ネギの苗を作っているハウス

1日18時間・365日「97年分の差」をつける

清水さんの経営を支える根底には、アスリートさながらの自己規律と労働哲学が存在する。

「一流のプロスポーツ選手が酒を飲んだりタバコを吸ったりするのか? 一流のサラリーマンや経営者だって同じだ」

そう語る清水さんは、20代の頃から酒・タバコを一切断ち、脳トレのために食事も利き手とは逆の手で食べるなど徹底した身体コントロールを行っている。近年は自分を律してパフォーマンスを落とさないための習慣として肉もやめ、野菜中心の生活にする。風邪すら引かないストイックな健康管理の目的は、「1日も休まず働き続けるため」だという。

「一般的な社会人が1日8時間・年間240日・40年間働くと、生涯労働時間は7.68万時間。対して、1日18時間・365日無休で40年間働くと、その生涯労働時間は26.28万時間に達する。その差は18.6万時間。これを一般的な社会人の年間労働時間(1920時間)で割ると、約97年分の差がつく。凡人が天才に勝つには、時間で圧倒的な差をつけるしかない」