ほぼトンネルでも「圧迫感には慣れる」

別の課題に、トンネル内に閉じ込められる「乗客の抵抗感」がある。

試乗車の窓外の景色。営業車はフードで囲まれる
筆者撮影
試乗車の窓外の景色。営業車はフードで囲まれる

国際的なコンサルタント、大前研一氏は2026年10月2日の雑誌『プレジデント』で、真っ暗なトンネルばかりを通過することで、乗客たちはリニアに抵抗感を抱くとコラムに書いていた。

大前氏によると、ルートの約86%はトンネルで車窓の景色は期待できず、万一、岩盤の厚さ最大1400メートルのトンネル内で列車が止まったらと想像するだけで、生きた心地がしないと記している。圧迫感や不安は理屈では消えない。最初は物珍しさで人気があってもリピーターは少なく、乗客がわざわざリニアを選ぶとは思えないという意見だった。

これと同じ意見は、日経ビジネス2018年8月20日号のリニア特集でも見られた。

日経ビジネス記者が「(リニアは)防音対策や、鉄道車両に近い形状への設計変更を重ね、新幹線に近い乗車感覚に仕上げてきた」と評価しているのに対して、JR東日本の元社長、会長の松田昌士氏(故人)はトンネルを時速500キロで飛ばすと、ボルト1つ外れても大惨事になるから、「俺はリニアは乗らない。だって、地下の深いところから、死骸も出てこないわな」と述べたという。

ちなみに松田氏は「国鉄改革3人組」の1人であり、改革3人組の別の1人で、リニア計画を主導したJR東海の葛西敬之氏(故人)とはライバル関係にあった。

大前氏、松田氏とも地下深いトンネルを通過するリニアへの圧迫感や不安などは消し去ることができないようだが、それこそ個人の感覚であり、当初は飛行機でも同じような恐怖感や不安を抱いた人が多かった。

今回の試乗で、同乗した36歳の編集者は「トンネルも空の上も同じようなもので、すぐに慣れるのではないか」と話していた。若い人たちには問題ないのかもしれない。

消費電力減が期待できる高温超電導磁石

リニアの心臓部と言われる超電導磁石の技術的な問題はどうか?

JR東海の2023年6月版パンフレットからは、超電導磁石として「従来の超電導磁石」と「高温超電導磁石」の2つが紹介されている。従来の超電導磁石よりも優れた高温超電導磁石が営業運転にすべて使われるという。

リニア車両の超電導磁石部分
筆者撮影
リニア車両の超電導磁石部分

リニアは冷却すると電気抵抗がゼロになる超電導磁石を用いて強力な磁界を発生させ、ガイドウェイのコイルとの間に生じる吸引、反発を利用して車両を浮かせている。

従来の超電導磁石は液体ヘリウム、液体窒素を使い超電導状態のマイナス269度にするのだが、2023年頃からマイナス255度程度で超電導状態を生み出す高温超電導磁石を投入しているという。

約14度高い状態で超電導状態にできることで、冷媒として使う高価な液体ヘリウム、液体窒素が不要となり、冷却に要する消費電力の低減などが期待できるのだという。今回試乗したM10にも高温超電導磁石が搭載されている。