一罰百戒という発想が、「見せしめ」を生む
それにしても、黒木被告の事件は、なぜこれほど大きく報道されたのでしょうか。
同じような金額の脱税をしている人は、実は珍しくありません。税務調査で多額の追徴を受けているインフルエンサーも、報道されないだけで、いくらでもいます。それでも彼女の事件だけが表に出たのは、明らかに「見せしめ」と考えられます。
国税局には記者クラブがあり、どの事案を発表するかは広報の判断です。そこで「これは話題になるだろう」と判断された事案が出てくる。基準は、社会的影響力の有無です。誰も知らない人を摘発しても、ニュースにはなりません。有名で、影響力があって、金額も大きい。三拍子そろった黒木被告は、当局にとって理想的な素材でした。
見せしめという発想は、警察と同じです。薬物で逮捕されたことが大きく報じられるのは、芸能人やスポーツ選手ばかりでしょう。一般の人があれだけやっているにもかかわらず、です。
こうした派手な取り締まりを表沙汰にすることで、「俺たちはすごいぞ」という組織のアピールと、「悪いことをすれば必ず捕まる」というメッセージの両方を狙っています。
ちなみに国税の査察(いわゆるマルサ)の世界で使われている「一罰百戒」という言葉は、一つの罰で、多くの人への戒めとせよ、という意味です。2026年6月に国税庁が公開した査察資料においても、こうした査察制度の目的を「一罰百戒の効果」と明記しており、SNSで活躍するインフルエンサーの脱税事件を重点事例として挙げています。
「いいね」は押さない人たち
今回、黒木被告に執行猶予がついたのは、本人が事実を認めて反省していることに加え、判決までに修正申告と全額納税を済ませていたことが大きいでしょう。一般に、こうした事後的な納税対応が量刑を左右します。
判決が出て、彼女の話が終わったとは、私は思いません。化粧品をはじめ、いろいろな事業を手がけているようですから、ファンが離れれば厳しいものの、ああいう人たちは商魂がたくましいですから何か別のことを始めるはずです。
今回の事件は組織犯罪のようなものではなく、「芋づる式」に誰かが挙げられることはないでしょう。ただし今後、黒木被告とはまったく異なる文脈から、別のインフルエンサーが浮かび上がってくることは、間違いなくあります。
インフルエンサーが抱える多くのフォロワーの中には、少なくとも数人、国税の職員がいます。彼らは「いいね」もコメントもしません。ただ淡々と投稿を眺め、情報を収集しています。
今この瞬間も、どこかの国税局の机の上で、次なるターゲットの企画書が書かれているのです。
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