「架空の業務委託費」という手口自体は、税務調査の世界では古典中の古典です。売上を隠すよりも、経費を膨らませるほうが心理的なハードルが低いからでしょう。

通常の税務調査で脱税行為が明らかになった場合、追徴税に加えて「重加算税」(原則として本税の35~40%)という行政上のペナルティが課されます。しかし、金額が大きく悪質な場合は、国税局の査察部が刑事事件として調査し、検察に告発します。

今回の黒木被告は、この告発を受けて東京地検特捜部が在宅起訴し、有罪判決に至ったわけです。刑事罰は、追徴税や重加算税とは別に科されます。さらに、刑事罰の後には社会的制裁が待っています。黒木被告は、税のペナルティに加え、刑事罰、社会的制裁と三重に罰を受けた形になります。

国税側としては大きな成果となった本件ですが、どのようにして黒木被告の脱税行為を把握したのでしょうか? 私の職員時代の経験を踏まえ、調査の流れを明かします。

脱税を見抜く手法を明かす元税務署長の横井克宏氏
本人提供
脱税を見抜く手法を明かす元税務署長の横井克宏氏

国税は、まずプラットフォームに聞く

おかしなお金の動きを見つける時、一番簡単なのは預金です。預金の動きを見るのは、昔から変わりません。さらに、プラットフォームに情報提供を依頼することもあります。

私が電子商取引を担当していた当時は、インフルエンサーやYouTuberなどについて、プラットフォーム事業者に情報提供の協力を求めることがありました。具体的には、動画配信や広告のプラットフォーム事業者に対し、「どのアカウントがどれだけ再生され、どれだけ収益を得ているか」を照会し、リスト化します。

そこから、たとえば上位100人、あるいは「所得が1億円以上ありそうだ」という人に当たりをつけ、その人物の確定申告書と突き合わせる。それだけの売上があるはずなのに申告がない、あるいは明らかに少ないとなれば、そこで初めて「調査対象」として企画に上がります。

その後は、銀行を調べ、行動確認をします。愛人がいそうだ、車をこんなに持っている、こんな時計をしている、といったことを実際に見に行くのです。長いものでは、企画書の段階から1年ほど掘り続ける事案もあります。

私が率いていた電子商取引の部門では、こうしたネット上の情報を机の上で調べ、メールアドレスやドメインなど、あらゆる断片から人物を特定していきます。点を線にし、線を面にする。その中で「これは確実だ」と思うものを、優先順位をつけて順番に潰していく。そんな極めて地道な作業です。

そして、忘れてはいけないのが、本人のSNS投稿そのものです。高級車、ブランド品、海外旅行、六本木のホテル住まい。派手な生活を誇示する投稿は、国税の調査官にとっては「私はこれだけ稼いでいます」という自己申告に等しい。

こうした事前調査を経て、申告書に書かれた所得と、SNSに映る生活水準がかけ離れていれば、その落差に着目した本格的な税務調査が始まります。この段階で、すでに国税側は相当な情報を掴んでいるのです。