なぜ国税は個人情報を把握できるのか
「プラットフォームが国税に個人情報を渡すのは違法じゃないのか」と思われるかもしれません。
しかし、個人情報保護法には「法令に基づく場合」は本人の同意なく第三者に提供できるという例外があります(同法27条1項1号)。税務当局からの照会に応じることは、この例外に当たるとされ、本人の同意なしに情報を提供することができます。
さらに近年は、制度面でも当局の権限は強化されています。2019年度の税制改正で、国税通則法に「事業者等への協力要請」(74条の12)と「特定事業者等への報告の求め」(74条の7の2)が整備されました。これにより、対象者の氏名や住所、マイナンバーなどの情報を得ることができます。
後者は、アメリカのIRS(米国内国歳入庁、日本の国税庁に相当)が使う「ジョン・ドウ・サモンズ」という制度を参考にしています。これは、特定の個人ではなく、一定の条件に当てはまる利用者群について、事業者に情報の提出を命じる制度であり、暗号資産の交換業者などを念頭に置いた仕組みです。国税局長が対象取引を指定し、事業者に報告を求めることができます。
もっとも、正直に言えば、この「報告の求め」を実際に使った例はまだ少ないと聞いています。現場では今まで通り、照会文書を出し、事業者が任意で回答する形がほとんどです。それでも回答はだいたい返ってくるのですが。理由は単純で、プラットフォーム側にとっても、国税ににらまれるのは怖く、「協力しておいたほうがいい」という判断が働くからです。
「小汚いおっさんが飯を食う配信」が投げ銭1位
少し脱線しますが、サイバー税務署長時代の思い出話を一つ。
私がサイバー税務署長に着任したのは、ちょうどコロナ禍に入る直前でした。当時、私たちが目をつけたのは「投げ銭」です。ライブ配信で視聴者からリンゴやネコのマーク、盛り上がるとエッフェル塔が飛んでくる、あれです。「投げ銭を一番多くもらっているのは誰だろう」ということで、上位10人を洗い出しました。
すると1位は、小汚いおじさんが飯を食っているだけの配信でした。2位が、ひたすらビールを飲んでタバコを吸いながらグダグダと話しているホスト。
正直、「こんなものを、誰が見るんだ」と思いましたが、実際にお金は動いていたのです。上位者は東京に限らず、北は札幌、南は九州まで散らばっていたので、「これは面白そうだ」ということで、各局同時に一斉調査をかけました。
九州の事案では、マンションの一室に突然「国税局です」と訪ねていったところ、調査の様子を音声だけでネット配信されてしまった、ということもありました。その日のうちに全国に「国税が来た」と伝わったでしょうが、それはそれで抑止効果になったでしょう。
本格的にコロナ禍に入ると、銀座や赤坂のクラブのお姉さんたちが店に立てなくなり、ネットでマッチングして客と飲む「ギャラ飲み」に流れました。当時、電子商取引の部門ではギャラ飲みも追いかけていましたが、お金が動く場所が変われば国税が見る場所も動きます。

