中国との軍事的接近とAIが関係しているか

これらの状況を踏まえ、ジョコウィ氏の後を継いで24年10月に就任したプラボウォ大統領は、国家予算を投じる方針を打ち出さざるを得なくなった。これが、日本側から「ちゃぶ台返し」と批判され、「金利が中国の20分の1程度に安い日本式にしておけばスラバヤ延伸も現実的だった」(JICA関係者)との恨み節も聞かれる所以ゆえんだ。これらの経緯は、過去にプレジデントオンラインで詳報している。

(参考:やっぱり「日本の新幹線」を売らなくてよかった…日本を出し抜いた習近平がインドネシアで食らったしっぺ返し)

王毅氏(中央左)、董軍氏(同右)と会談するプラボウォ氏(中央)。インドネシアのプラボウォ大統領は2026年8月21日、首都ジャカルタの官邸で中国の王毅(おう・き)外交部長、董軍(とう・ぐん)国防部長と会談した。
写真提供=新華社/共同通信イメージズ
王毅氏(中央左)、董軍氏(同右)と会談するプラボウォ氏(中央)。インドネシアのプラボウォ大統領は2026年8月21日、首都ジャカルタの官邸で中国の王毅おう・き外交部長、董軍とう・ぐん国防部長と会談した。

さて、問題は今回の中国の大盤振る舞いの裏に何が取引されたか、だ。当然中国が善意でこのような好条件をインドネシアに与えるわけがない。両国が取引の存在を公表したわけではないが、筆者は①軍事的接近と、②中国製人工知能(AI)のインドネシア国内での独占的普及――を見返りとしている可能性が高いと考える。

8月21日には王毅外相と董軍国防相がジャカルタを訪れ、スギオノ外相(当時)、シャフリィ国防相との外務・防衛閣僚対話「2+2」を開催した。ここで注目されたのがエネルギーや投資環境の改善など従来からのテーマに加え、ミサイルやロケットを含む兵器の共同生産と、中国からの技術移転が協議されたことだ。同じ日、王毅外相はスギオノ外相(当時)と初の包括的戦略対話も開き、AIの分野で新たな協力メカニズムを創設することで合意している。これが日米政府の不信感を膨らませている。

(Kementerian Pertahanan Republik Indonesia「Menhan Sjafrie dan Menhan RRT Sepakat Perkuat Kerja Sama Pertahanan Indonesia–RRT」)
(CNN Indonesia「Wang Yi Temui Sugiono, China-RI Perkuat Kerja Sama Energi hingga AI」)
(CNN Indonesia「Bersaing dengan AS, China Justru Ajak RI Dukung Inisiatif AI Global」)

もともとはアメリカ寄り、米軍機の領空通過案も浮上

インドネシアはこれまで1968年に成立したスハルト政権以降、米軍との関係を重視してきた。プラボウォ大統領自身、米国で訓練を受けたこともあり、「頭の中は基本的にアメリカ人」(インドネシア政府関係者)との声も少なくない。

実際に、インドネシアと米国は4月、防衛協力を大きく進展させた。インドネシアのシャフリィ国防相は13日、ワシントンでヘグセス米国防長官と会談し、両国関係を「主要防衛協力パートナーシップ(MDCP)」に格上げ。軍の近代化・能力構築、訓練・専門軍事教育、演習・運用協力の3本柱を掲げ、海洋・水中技術や航空機整備などの協力拡大でも一致した。

(U.S. Pacific Command「Hegseth, Indonesian counterpart announce defense partnership」)

この際、米軍機にインドネシア領空の包括的な通過を認める米側提案が浮上した。インドネシア国防省は同月13日時点で、領空通過に関する意向書(LOI)は内部検討中の草案で、最終合意ではないと説明。

一方、インドネシア外務省は4月初旬の段階で、同国の国防省に「緊急・機密」扱いの書簡を送り、南シナ海を巡る対立に巻き込まれ、中国などとの関係に影響する可能性があるとして慎重な対応を求めていた。

その後、シャフリィ国防相は5月19日、4月にLOIへ署名したことを認める一方、米軍機の領空通過を認める法的な約束ではないと強調した。ただ、当時のインドネシアは米軍よりの姿勢が明らかになっていた。インドネシア外務省筋は「外務省がメディアにリークする形で勢いを削がなければ米軍の領空自由航行は十分にあり得た」と警戒感を隠さない。

(Reuters「Indonesia's foreign ministry urges caution over U.S. military overflight proposal」)
(Reuters「Indonesia signed letter but made no commitment to US on airspace access, defence minister says」)