3年前に、安倍晋三が発言したこと

――猪木議員の所属する日本維新の会には、平沼赳夫衆議院議員、中山恭子参議院議員など対北朝鮮強硬派として知られる拉致議連の幹部が多く所属する。安倍総理も対北強硬派として名を馳せてきた政治家だ。

【猪木】(日本維新の会の)国会議員団とは、緊密に連絡をとっています。もちろん渡航に対しても、事前に国会議員団役員の理解を得て、正当な党内手続きを踏んでいます。拉致議連幹部も私の描く外交的解決に異論を唱えることもなく、あらゆる面で協力をしていただいています。

古屋大臣は、1月31日の記者会見で「平沼赳夫議員(拉致議連会長)から、猪木の話を聞くように言われた」と発言しました。大臣とは日程調整がつかず会えなかったのですが、政府の拉致問題対策本部の方が来てくれました。維新の会の東西問題に立ち入る気はないけれど、東の議員は拉致問題の解決に積極的で、柔軟な発想がある。

3年ほど前のことになりますが、安倍総理が、当時は野党の一議員だったときに拉致問題解決に向けてこんな話をしたことがありました。私が拉致問題解決に向けて、制裁ばかりでなく、対話もあってしかるべきだと述べると、「おっしゃる通りだけれども、私は現在野党の一議員で、政府の方針に関してどうすることもできない」旨の発言を私に返したのです。そこで私は「安倍先生は、(小泉純一郎内閣、第一次安倍内閣のときに)日朝の関係に鍵をかけてしまった。だから、この鍵を開けるための暗証番号を知っているのは安倍先生しかいませんよ」と、話したのです。

現在、安倍総理は与党に返り咲いたばかりか、国家の最高司令官の地位についていらっしゃいます。

北朝鮮が発行した招待状(※)

想像するに、拉致被害者の引き渡しが約束されない限り、政府として北朝鮮と直接交渉をするのは嫌なのでしょう。成果がなければ内閣支持率が下がると考えているのかもしれない。しかし、2度目の小泉訪朝でも拉致被害者の引き渡しは行われなかった。小泉さんはリスクを恐れずに決断し行動したからこそ、国民からの支持は高かったのではないでしょうか。常識で考えてみてください。両国の対話がない状況で、北朝鮮側から「拉致した人たちをお返しします」なんて言ってくることはありえません。まずはお互いの要望を伝え合い、理解し合う「対話」の場を持つのは外交の基本です。国民からの批判を恐れて、それができていないのが今の状況です。

早期に対話を開始したい北朝鮮から日本政府へボールが投げこまれました。はっきり言って、今、拉致問題に進展がないのは日本の問題です。もし北朝鮮との対話が進めば、韓国が動揺し、険悪な日韓関係改善の糸口にもなるのではありませんか。

※北朝鮮が発行した招待状(訳文)
「日本国参議院議員・スポーツ平和交流協会理事長 猪木寛至先生」「朝日友好親善協会は、<中略>猪木寛至先生に敬意を表しつつ、今年の良い時期に日本の国会議員代表団が朝鮮民主主義人民共和国を訪問することを公式に招請するものであります。」「私たちは、国会議員代表団の共和国訪問が、朝日両国民の友好と親善をはかり、両国の関係正常化に寄与することを希望します。」<中略>「朝日友好親善協会2014年1月15日平壌」。

参議院議員 アントニオ猪木
本名・猪木寛至。1943年2月20日、横浜市鶴見区に生まれる。14歳のとき、家族とともにブラジルに移住。60年力道山にスカウトされて帰国、日本プロレスに入団。柔道王ウィリエム・ルスカ、プロボクシング世界ヘビー級王者モハメド・アリらと「格闘技世界一決定戦」を行い、世界にその名を轟かせる。リングの外では、89年スポーツ平和党を結成。2013年、参議院議員。
(インタビュー・構成=大高志帆 撮影=原 貴彦)
【関連記事】
韓国、中国が狙う、北朝鮮の植民地化
結局、“張成沢氏銃殺”で北朝鮮に何が起こるのか
安倍首相の靖国参拝、知られざる波紋