「説明して謝罪を」までは正当な要求
「ハードクレーム」と「カスハラ」は、いずれも要求が厳しいという点では共通しているかもしれないが、先述のとおりその態様に違いがある。
商品や対応への強い不満から、説明や改善、相応の補償を求めることは正当なクレームである。一方で、暴言や脅迫、長時間の拘束、担当者への個人攻撃など、要求を通すための手段が社会通念上許される範囲を超え、従業員の就業環境を害するなら、それはカスハラに該当する。
たとえ会社のミスが発端で、客の主張に正当性があっても、従業員を攻撃してよい理由にはならない。苦情の中身と、その伝え方は分けて考えないといけないのだ。いわば「クレーム」は正当な改善要求であり、「カスハラ」は一種の加害行為といってもいいだろう。
では、具体的な事例で検証していこう。
飲食店で注文と違う料理が出てきた。客が「事情を説明して、謝罪してほしい」と言う。店が間違えたなら、確認して説明し、お詫びして作り直すなり返金するなりを検討する。ここまでは正当な要求であり、カスハラには該当しないだろう。
ところが、「その場で土下座して」となれば話が変わる。その要求は注文通りの料理を出すこととも、損害を埋め合わせることとも関係がない、「目の前の人を屈服させる要求」だからだ。実際、土下座強要は厚労省の指針でもカスハラの典型例に挙げられている。したがって、現場では一切要求に応じる必要はない。
「責任者を出せ」「誠意を見せろ」はグレー
では「謝罪しに自宅へ来て」だとどうだろう。業態によっては、商品回収や現場確認のための訪問が必要な場合はあるかもしれない。しかし、事情説明や返金なら店頭や電話で済むのに、担当者個人を夜間に自宅へ呼びつけるなら、謝罪という言葉を使っていても過大な要求になり得る。「会社として説明してほしい」と「担当者を呼び出して頭を下げさせたい」の間には、はっきりした距離があるのだ。
「責任者を出せ」という要求の場合を考えてみよう。店員側に返金の権限がなく、判断できる人に説明を求めたい、といったニーズがあるならもっともだ。しかし、責任者が理由を説明してもなお「社長を出せ」「担当者をクビにしろ」と迫り、解決のハードルをどんどん上げていくなら、もはや元の苦情とは別の話で、単に理不尽な要求に従わせることが目的になってしまっているかもしれない。
マンガやドラマでよく見る「誠意を見せろ」はさらに厄介だ。誤請求の訂正と返金を求めているなら、具体的な解決の相談という話で収まる。ところが、店側が何をしてほしいのか尋ねても答えず、「俺が納得するまで帰さない」「このままネットに流してもいいんだぞ」などと威圧が続くなら、相手は終わりのない応対や特別待遇を迫っている可能性がある。

