「地域軸」から「機能軸」そして「出来事軸」へ
【武中】我々が進める新病院でも病院長、看護部長などをオープンスペースに集めて交流を促すというのはありかもしれません。会って話すことでリアルな情報が共有できる。その他のフロアはどのようになっていますか?
【岡村】社員に決まった机はなく、それぞれのロッカーから荷物を取りだし、その日によって働く場所を変える。
【武中】いわゆる完全フリーアドレス制ですね。
【岡村】2005年、山之内製薬と藤沢薬品工業が合併してアステラス製薬ができました。当初は、社員の所属する場所、つまり“地域軸”で管理していました。それぞれの地域にトップがいて、独立してビジネスをしていた。それぞれの地域では上手く行なっていたのですが、シナジー効果は全くなかった。
【武中】地域の枠を越えた波及効果はなかった、と。
【岡村】そこで研究、開発、営業、などの“機能軸”に再編しました。それぞれの部門は全世界で1つの組織として研究、開発、人事もファイナンス(財務)も行う。すると研究者はなるべく早く、開発の人間に製品を渡したい。しかし、開発の人間は成功しそうにない製品は受け取りたくない、自部門優先で“隣り”のことを考えなくなってしまった。
【武中】我々、病院でも診療科の垣根が高いと縦割りの弊害が起こりうる。
【岡村】そこで昨年4月から“出来事”軸にしました。出来事とは製品、技術、プロジェクトなどのことです。権限を委譲された多機能な小さな集団が、自分たちで意思決定、方向修正をしながら進めていく。
様々な部署の人間が、今日は何階に集まろうというイメージです。デスクが固定されていて、あなたはここで働きなさいとか、本社に週4日以上通勤する必要があるとか、そんなルールがあっては駄目なんです。
【武中】他部署の人たちとの交流でイノベーション(技術革新)も起こりやすくなる。
【岡村】私たちは、この出来事軸を患者軸とも呼んでいます。何が患者さんのためになるか、そこを第一義とする。冒頭でお話した、患者さんを中心に捉えて判断していくという働き方です。
【武中】とりだい病院では、ロボット支援手術をはじめる際、外科手術を行う診療科を集めた低侵襲外科センターを設立しました。センター化することで診療科の壁をなくしたことと似ている。他部署との交流を促すことは大賛成。しかし、我々の場合は患者さんの診察があるのでオープンスペースというのは難しい。
【岡村】もちろん当社もお客さまと対面で接する現場や、研究所、工場は別です。一方で、それを支える機能は、組織横断的に連携することでより早く、より大きな「価値」を生み出せると考えています。
土地を耕し、種をまき、水をやり続ける
【武中】働く場所で言えば、遠隔治療が今後の医療のキーワードの1つ。過疎地域、中山間地にたくさんの医者を派遣するのは難しくなっています。どうしても対面でなければならない場合は別として、通常は看護師に加えて遠隔治療で医師が対応する。そうすると限りある人的リソース(資源)を有効に使える。
【岡村】最後にぼくから質問してもいいですか。病院長には任期があります。このとりだい病院をどのように引き継いでもらいたいと考えていますか?
【武中】以前、岡村さんから薬の開発は10年単位の時間がかかるとお聞きしました。前の前の社長が手をつけたことが今の自分の功績になると。だから岡村さんは今、次の次の社長のために種を撒いている。ぼくも同じです。とりだい病院が黒字経営を続けられたのは、前任者たちが土地を耕し、種をまき、水をやり続けたからです。
私はそれを刈り取っているだけ。そして同時に種も撒いているつもりです。その1つが「医療のエコ」です。次の病院長の考えもあるので強制はできませんが、この医療のエコは継続していただきたいなと望んでいます。
※現金収支。出典:国立大学病院長会議「2025年度 国立大学病院収支状況等調査について(報告)」。
岡村直樹(おかむら・なおき)
アステラス製薬 代表取締役社長CEO
1962年静岡県生まれ。東京大学薬学部卒業後、1986年旧山之内製薬株式会社入社。2010年米国 OSIファーマシューティカルズInc.CEO、2012年アステラスファーマ ヨーロッパLtd.経営戦略担当SVPを務める。アステラス製薬帰任後は事業開発部長、経営企画部長などを経て、2018年経営戦略担当役員就任。2023年4月より代表取締役社長CEOに就任。
武中 篤 (たけなか・あつし)
鳥取大学医学部附属病院長
1961年兵庫県出身。山口大学医学部卒業。神戸大学院研究科(外科系、泌尿器科学専攻)修了。医学博士。神戸大学医学部附属病院、川崎医科大学医学部、米国コーネル大学医学部客員教授などを経て、2010年に鳥取大学医学部腎泌尿器科学分野教授。2017年副病院長。低侵襲外科センター長、新規医療研究推進センター長、広報・企画戦略センター長、がんセンター長などを歴任し、2023年から病院長に就任。とりだい病院が住民や職員にとって積極的に誰かに自慢したくなる病院「Our hospital~私たちの病院」の実現に向けて取り組んでいる。
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