不安や抑うつ症状との関連
さらに、過敏性腸症候群は不安や抑うつとも関連しています。海外の研究では、過敏性腸症候群の患者の39.1%に不安症状、28.8%に抑うつ症状がみられ、健康な人と比べると、不安症状は約3.1倍、抑うつ症状は約3.0倍多くみられることがわかりました(Zamani et al., 2019)。これは過敏性腸症候群が心理的な不調と密接に関連していることを示す結果です。
こうした仕事や睡眠、心理面への影響は、健康関連の生活の質(QOL)の低下とも関連することがわかっています(Cassar et al., 2020)。
このように、過敏性腸症候群は、お腹だけの問題と考えず、仕事や睡眠、心の状態まで含めて生活全体に影響する疾患として捉えることが必要なのです。
「食事・症状日誌」をつける
過敏性腸症候群では、食事をきっかけに腹痛や下痢、便秘などの症状が悪化することがあります。
一般的に、脂質の多い食事やカフェイン、アルコール、香辛料などは、症状を悪化させる要因として報告されています。一方で、どの食品が、どの程度症状に影響するかには個人差があることも示されています(Clevers et al., 2020)。そのため、むやみに食事を制限するのではなく、何を、どのくらい、どのタイミングで食べたときに症状が出やすいのかを見極めることが大切です。
その方法の一つが、食事と症状を記録する「食事・症状日誌」です。実際、過敏性腸症候群の患者を対象とした研究では、食事内容と消化器症状を日誌に記録することは、症状を誘発する因子の特定に役立つことが示されています(Wright-McNaughton et al., 2019)。食べたものだけでなく、食事の量や時間、便の状態、腹痛や腹部膨満なども記録しておくと、自分に合った食べ方を見つける手がかりになります。
さらに、過敏性腸症候群の食事療法として「低FODMAP食」があります。FODMAPとは、小腸で吸収されにくく、大腸で発酵しやすい糖質の総称です(日本消化器病学会. 2020)。こうした糖質を多く含む食品を一時的に減らすことで、腸内に水分やガスが増えるのを抑え、腹痛や腹部膨満、便通異常などの症状の改善に有効であることが示されています(Black et al., 2022)。
ただし、低FODMAP食は食品を長期間、一律に制限し続けるための食事法ではありません。一定期間食品を減らした後、少しずつ戻していき、自分に合った食べ方を探ります。自己流で極端な食事制限を長期間続けると、栄養の偏りにつながる可能性もあるため、必要に応じて医師や管理栄養士などに相談しながら取り組むことが大切です。

