周りに振りまわされるのは、自信がないから。自信がないのは、心が乱れているから。禅僧の修行は、心を整えるテクニックの宝庫だ。「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれた高僧が、あなたの日頃の迷いに対して、考え方の筋道をわかりやすく説く。

思い当たることはないでしょうか。もしこれといった理由が見つからなければ、家庭内のコミュニケーションを見つめ直す必要があります。

コミュニケーションの基本は会話です。昔のお父さんなら「いちいち言葉を交わすのは面倒だ、家族だから黙っていてもわかるだろう」と考えたかもしれませんが、時代は変わっています。

最近は「以心伝心」という言葉もあまり使われなくなりました。心を以て、心に伝える。もともとは禅語で、言葉を介さなくても、思っていることが相手に伝わり、お互いに理解し合えるという意味です。

本当に親しい人とは、会話しなくても気持ちが通じ合える、わかり合えると思いたいのが人間です。少なくとも家族の間ではそうありたいと誰もが願うはずです。

しかし家族でも、一足飛びに以心伝心の関係になるのは難しいことです。親子でもそうですし、もともと違う環境で育った夫婦はなおさらです。だから、日々の会話が大切なのです。

仕事が忙しくてすれ違いになることが多くても、家族全員で食卓を囲み、最近の出来事や思っていることを話し合える場をつくりたいものです。そうやってコミュニケーションを重ねれば、会話する時間がとれない日があっても、「仕事で頑張ってるな」と相手のことを受け入れられるのです。

すべてがむき出しになっているという意味の「露(ろ)」も禅語の一つです。家族の基本はこの「露」だと私は考えています。お互いに体裁を取り繕うことなく、隠すこともない空間が家庭です。

職場では役職や立場があり、地域社会ではまた別の顔があります。その立場や顔に合わせた役割が求められますが、家庭はありのままの自分に戻れる場所なのです。

日々の会話を大切にし、お互いの心が露わになれば、妻の視線が冷たいということもなくなるはずです。

曹洞宗徳雄山建功寺住職 枡野俊明
1953年、神奈川県生まれ。庭園デザイナーとしても活躍。代表作に水戸・祇園寺庭園、東京・カナダ大使館など。多摩美術大学教授、ブリティッシュ・コロンビア大学特別教授も務める。『禅と禅芸術としての庭』『禅シンプル発想術』など著書多数。
(構成=伊田欣司 撮影=若杉憲司)
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