周りに振りまわされるのは、自信がないから。自信がないのは、心が乱れているから。禅僧の修行は、心を整えるテクニックの宝庫だ。「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれた高僧が、あなたの日頃の迷いに対して、考え方の筋道をわかりやすく説く。

年齢とは関係ありません。60代で少しも疲れや老いを感じさせない人もいれば、30代なのに10歳くらい老けて見える人もいます。

病気は「気の病」と書くように、心と深く関係しています。心は、肉体にさまざまなかたちで表れてきます。次々と新しいことにチャレンジしていく人は、どれだけ忙しく働いても、見た目にも疲れを感じさせません。

心の疲れを取り除き、気力を充実させるには、私たち禅僧の修行が参考になると思います。規則正しい生活を送り、姿勢と呼吸を整えるのです。

禅僧は、起床から就寝まで毎日決まった生活を送っています。朝早くから掃除で身体を動かし、読経で大きな声を出し、腹式呼吸を繰り返します。腹八分で満腹になるまで食べることはありません。野菜中心の食事ですから、肌がきめ細かくツヤツヤしています。

禅では心を整えるために、まず自らの所作を整えます。正しい立ち居振る舞いは、心を穏やかにし、充実した生き方の基本となるものです。

「行住坐臥(ぎょうじゅうざが)」とは歩く・止まる・座る・横になることですが、立ち居振る舞いの基本です。日常生活でまずこの4つを意識し、正しく美しく振る舞うように努めてください。

例えば、歩き方。背中を丸めてうつむいて歩くと、考え方もネガティブになりがちです。胸を張って正面に目を向け、真っ直ぐに歩いてみましょう。

デスクワークが多い人は、座っている姿勢を正しく保ってください。頭のてっぺんから尾てい骨までが一直線になるように意識し、背もたれに背中をつけないで座ります。

正しい姿勢が保てたら、次に呼吸を整えます。臍下丹田(せいかたんでん)(おへその下75ミリあたり)に意識を集中します。ポイントは息を吐ききることです。吐ききったら、あとは身体が自然に吸うのに任せます。呼吸の長さは1分間に7~8回が目安です。深い呼吸を続けると身体が温まってくるのがわかります。この腹式呼吸ができれば、正しい姿勢がとれていると思っていいでしょう。

鏡を見て疲れが顔に出ていたら、まずは姿勢と呼吸を意識することから始めてみましょう。

曹洞宗徳雄山建功寺住職 枡野俊明
1953年、神奈川県生まれ。庭園デザイナーとしても活躍。代表作に水戸・祇園寺庭園、東京・カナダ大使館など。多摩美術大学教授、ブリティッシュ・コロンビア大学特別教授も務める。『禅と禅芸術としての庭』『禅シンプル発想術』など著書多数。
(構成=伊田欣司 撮影=若杉憲司)
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