だから原稿を用意したのに伝わらない

このことを理解すると、日常の中でよくある経験が別の角度から見えてきます。

大事な商談や交渉を前に、念入りに原稿を用意したにもかかわらず、うまくいかなかったという経験はないでしょうか。原稿の内容自体は間違っていない。論理も整っている。それでも相手に刺さらない。

その原因の多くは、言語情報よりも視覚情報・聴覚情報の側にあります。棒読みになっていれば、内容がどれほど良くても「熱意が感じられない」という印象を与えます。表情が硬ければ、「この人は信頼できるのか」という疑念を呼び起こします。

原稿を完璧に作り込むよりも、表情・声のトーン・間の取り方をリハーサルで磨くほうが、結果として伝わる力は大きくなるのです。

これは、「内容より見た目が大事」という話ではありません。言語情報と非言語情報を統合して初めて、コミュニケーションは機能するという話です。話の内容はゼロではなく7%分の力を持っています。

ただ、残りの93%を占める非言語情報の質が低ければ、その7%は十分に届かないということです。

「シチュエーション」が人を動かす

この原理は、選挙という場面で非常にわかりやすく現れます。

選挙の演説を想像してみてください。同じ内容の政策を、同じ候補者が語っているとします。一方は人だかりがない閑散とした場所で、通行人の大半が素通りしていきます。もう一方は、大勢の支持者に囲まれ、熱気の中で語られています。

どちらの演説が「力強く聞こえるか」は、言うまでもありません。

力強い握手
写真=iStock.com/imacoconut
※写真はイメージです

話している内容が良ければそれだけで勝てるというのは、残念ながら甘い考えです。聴衆の反応・場の雰囲気・周囲の熱量といった「シチュエーション」が、言語情報を大きく上回る力でその場の評価を左右します。

これは、行列のある店に入りたくなる心理と同じです。視覚的に受け取った情報が、「この人の話を聞く価値があるかどうか」という判断を先行して形成してしまうのです。