3つの「圧力」による一方向への収束
ADHDを疾患カテゴリーに加えるよう政府へ働きかけた最大の団体は、1987年に多動性障害の子を持つ親たちが立ち上げた「CHADD(注意欠如多動症を持つ子供と大人の会)」だが、リタリンの製造元であるノバルティスが同団体に90万ドルの寄付をしていたことが後に発覚し、大きな批判を浴びた。
親の切実な願いと、製薬企業の利益、競争原理を導入した教育制度の圧力の三つが、一つの方向へと収束していったのだ。
だが、やがてこの問題は、教室の外にまで広がってゆく。競争が激化する社会の中で、適応できずストレスを抱えるのは子供たちだけではなかったからだ。
「もっと速く、もっと長く、もっと正確に」――そう求められる大人たちもまた、リタリンへと手を伸ばし始めた。ウォール街の金融トレーダーは集中力を「買い」、シリコンバレーのエンジニアは長時間労働を乗り切るためにリタリンを使った。大学では学生たちが、試験前に先を争って服用する。
「気が散りやすい」「飽きっぽい」という性質は、24時間フル稼働する資本主義社会においては、修正すべき「欠陥」とみなされる。かつて子供に向けられた問い――「じっと座れない子が悪いのか、それとも座らせ続ける環境が問題なのか」――は、大人の世界でも同じ形で繰り返されているのだ。
こうして、ソーマは、教室から社会全体へと、静かに広がっていった。
年5兆円も爆売れする薬の正体
2026年、ついに人類は、年間5兆円分の「集中力」を買った。
複数の市場調査によると、リタリンを含むADHD治療薬は、毎年9%という異常な成長率で「空前の爆売れ」を続け、売上げは2024年で約279億ドル(約4兆円)、2026年には約331億ドル(約5兆円)を突破すると予測されている。
リタリン単体でも、全世界で年間22億ドルの売上げを叩き出すというし、これにジェネリックを含めるとさらに膨大になるという、まさに製薬業界にとって「金の卵を産むニワトリ」だ。
最大の特徴は、処方される患者の年齢がどんどん若くなっていることだ。
6歳から12歳の子供に処方されるADHD薬の量は、2002〜2004年と2008~2010年を比較すると、84%増加、13歳から18歳では2.5倍にまで跳ね上がった。
90年代のブームが一時的熱狂で終わらなかった最大の理由は、かつては「子供の病気」とされていたADHDが、今や「大人になっても続く、一生管理すべき特性」へと再定義されたことにある。
製薬会社にとって、「一生の顧客」を確保できるビジネスモデルが完成したのだ。



