競合に1兆円規模でM&Aを仕掛ける

石油会社の油田開発は「千三つ」と言われて、1000本井戸を掘って、油が出るのは3本という世界だが、創薬の世界もほとんどそれに近い。

フェーズ1、フェーズ2、フェーズ3と臨床試験の段階を踏んで効能や安全性を確認し、いよいよ国に申請できる薬はまさに「千三つ」。新薬を1つヒットさせるのに1000億円はかかると言われている。

それだけ苦労してヒットさせた新薬も、特許が切れると後発薬(ジェネリック)がゾロゾロと出てくるので収益が激減する。新薬の値段を100とすれば後発薬の値段は日本なら50、アメリカでは20まで下がってしまう。というわけで開発部隊と販売部隊、2つの巨大な固定費を抱えている製薬会社としては、創薬の特許が切れる前に新薬のネタを仕込まないと売り上げが維持できない。

千三つの新薬開発では間に合わないから、外から仕込んでくるしかないのだが、そんなにおいしいネタがゴロゴロ転がっているわけもない。ゆえに製薬業界では競合に1兆円規模でM&Aを仕掛けたり、フェーズ2レベルの新薬のネタを持っているベンチャーでも1000億円単位で買収するのである。

日本の製薬業界では10年前後に大型医薬品の特許が次々と切れる「2010年問題」(武田の場合、09年タケプロン、11年アクトス、12年ブロプレスが該当)があったため、武田もグローバル化の推進と特許切れ対策の両面から、ミレニアムとナイコメッドを買収した経緯がある。

しかし、この大型買収をマーケットは必ずしも高く評価していないし(失敗続きのため、製薬メーカーのM&Aは一般に下げ要因と見られることが多い)、M&A後の組織統合をどうするか、いわゆるPMI(組織統合マネジメント)という大きな課題も残されている。